本研究は、人工関節置換術の術後予後不良の原因となる3つのリスク、すなわち「インプラントと骨との固着不良」、「術中術後の感染症」、「インプラントの破損」を大幅に低減できる、極薄の難剥離性Ag含有アパタイト被膜を、研究代表者が考案した「ハイドロキシアパタイト粉末と硝酸銀水溶液を混練して調整したスラリー状処理剤中に、チタン基材を完全に埋没させて、そのままスラリーごと熱処理する」という斬新な処理プロセスを用いて、チタン基材上に、ワンステップかつローコストで形成する技術の開発を目的としていた。 この研究目的を達成するために、平成27年度(3年計画の1年目)は、被膜形成のための表面処理条件の検討をおこない、被膜の密着強度や被膜からのAg溶出挙動の解析をおこなった。平成28年度(3年計画の2年目)は、上記成果を踏まえて、この表面処理技術で形成した被膜の生体機能の評価をおこなった。具体的には、材料表面にヒト骨芽細胞様子肉腫細胞(Saos-2)を播種して、細胞毒性及び骨形成性能を評価した。平成29年度(当該年度)は、スラリー処理で形成したAg含有アパタイト被膜の抗菌性能をグラム陽性及び陰性菌の2種類に関して評価し、さらに抗菌性の有無だけでなくその性能の持続性を調べ、本表面処理技術で形成された被膜の実用性についても総括した。 抗菌試験の結果、本技術で形成したAg含有アパタイト被膜はグラム陽性および陰性菌に対して優れた抗菌性を示し、この効果は被膜表面からのAg溶出に起因していることが示唆された。さらに被膜に含まれるAg含有量を調整することで、抗菌機能の持続時間をコントロールできることがわかった。 これらの成果により、スラリー状処理剤を使った本技術で「抗菌性」と「硬組織適合性」を併せ持つAg含有アパタイト被膜を、チタンインプラント上に、簡便かつローコストで形成できることが明らかとなった。
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