研究課題/領域番号 |
15K06461
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
高橋 紳矢 岐阜大学, 工学部, 助教 (40377700)
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研究分担者 |
武野 明義 岐阜大学, 工学部, 准教授 (70227049)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 粘着 / アクリル系粘着剤 / 動的ぬれ性 / 界面自由エネルギー / セグメント運動性 / 動的接触角 / ソフトマター / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
{ポリアルキルアクリレートの動的ぬれに対するアルキル鎖長と膜厚の効果} 一般に、高分子多成分系の表面状態は周囲の環境により動的に変化する。これは接触媒体との界面自由エネルギーを最小とするように構成分子やセグメントが界面に吸着・配向するためである。こうした動的な表面特性はガラス転移温度(Tg)が室温より十分低い、典型的なソフト高分子である粘着剤の性能に大きく影響を与えることが予想される。本件では、まず汎用粘着剤として広く用いられているアクリル系粘着剤について、アルキル鎖長と試料層膜厚の効果を考慮しながら、表面(界面)の組成変化と動的ぬれに関する基礎検討を行った。標準試料として、ブチルからステアリルまでの側鎖長が異なるアルキルアクリレートと4-ヒドロキシブチルアクリレートの共重合体を調製し、30 μmから30 nmまでの膜厚のフィルムに対して、各種接触角測定を中心としたぬれ性評価とX線光電子分光(XPS)による表面組成解析を行った。 {鎖長効果} 試料に対する水滴接触角の静置時間依存性や動的接触角などのぬれ性評価により、短鎖・長鎖と中鎖に明確に分類できる試料/水界面における成分セグメントの配向運動性が明らかとなった。この運動性は鎖長とともに試料Tgや側鎖間凝集(結晶化)現象と相関しており、簡便で非破壊の動的ぬれ性測定から異相界面での自己組織化挙動の観察が可能であることが判明した。 {膜厚効果} 膜厚が30 nmの極薄膜試料のぬれ性は、他の厚膜試料と異なる配向運動性に起因した典型ソフト高分子特有の性質を示すことが、Tgの高い高分子のそれとの比較で明らかとなった。これは鎖長に依存しない挙動で、非常に薄い界面層内の極性基の素早い吸着・配向に基づいたものであることが角度分解XPSの解析結果などから示唆されており、引き続き他の分析手段を用いて検証を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の実施計画は「界面及びバルクの動力学物性決定」であったが、標準試料及び比較試料調製に手間取ったこと、さらには動的ぬれ性評価から判明した知見と各種機器分析による表面状態の相関やクロスチェック解析の解釈などに時間を要し、調製した粘着高分子の粘弾性や粘着三物性などのバルク物性の測定・評価が遅れ気味のため、(3)を選択した。 また、得られた知見から新たな評価項目を設定し、表面物性の追加評価を実施中であることも理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
初年度はやや遅れ気味ではあるものの、動的ぬれ性解析による粘着高分子であるポリアルキルアクリレートの表・界面の物性評価を行った結果、【研究実績の概要】に述べたような特徴的なぬれ特性が判明したため、今後は継続的に以下の方針で本研究課題について実施する予定である。 1.ぬれ性評価で得られた知見のうち、試料表面における水滴の滑落挙動(滑落角と付着エネルギー)が粘着物性の一つであるタック値(短時間粘着強さ)と興味深い相関が観られたため、この相関を基にした粘着性に対するぬれ要素の大きさを調査する。 2.上記を含めて得られた知見を踏まえて、粘着剤のはく離過程観察など、他の力学試験を平行して行い、今年度以降の実施計画である経時の粘着(接着)強さに対する界面化学因子と動力学因子の寄与程度を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に必要となった機器の購入額が他の使用予定額と照らし合わせると、その受入額(170万)を越えたため、前倒し受入金(60万)を申請し、受理された前提がある。しかしながら、機器購入費と当該年度に購入した物品費が予定より少なかったために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
1.生じた当該助成金については、新たに必要となった測定項目に関わる機器使用料金および試料調製に要する物品費として充当する予定である。 2.上記1の実施分で充当できなかった調査目的の予備実験費および次年度の実施計画である「接着初期を支配する因子の評価・分類」に係わる動力学試験や試料調製の費用や粘着剤としての実用物性に対する信頼性の高い評価モデルや分子設計の指針を構築するための評価費用などに使用する予定である。
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