研究課題/領域番号 |
15K06462
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
棚橋 満 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (70314036)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コロイダルシリカ / ポリプロピレン / エポキシ樹脂 / 有機・無機ナノコンポジット / 界面制御 / ナノ分散 / 機械的特性 / 熱膨張率 |
研究実績の概要 |
研究の中間年度である本年度は、当初計画を踏まえ、シリカ/ポリプロピレン(PP)系およびシリカ/エポキシ樹脂系ナノコンポジットを対象とし以下の研究を実施した。 前年度【第1段階】として確立した調製法により得られたシリカ/ポリマー間界面相互作用を任意に制御した両コンポジット系について、前年度既に着手している【第2段階】の要素研究を継続し、界面相互作用がナノコンポジット全体の特性に及ぼす影響を調査した。 PP系については、分散シリカ表面の親・疎水性制御によりPPとの界面付着力が変化することで、固化成形時のPP相の結晶組織形成挙動や製品としての機械的特性にも多大な影響が及ぼされることがわかった。PP結晶組織への影響としては結晶化速度の解析により、シリカ分散の有無や表面の親・疎水性の違いで結晶の発生頻度や成長速度が大きく変化することがわかった。一方、機械的特性については、PPと濡れ性の悪い状態の親水性シリカを均一ナノ分散させることで、従来型複合材料ではトレードオフの関係となる剛性と靱性の両立に成功した。 エポキシ樹脂系については、親水性シリカを樹脂中に均一高充填分散させることで、従来の複合則に基づいた熱膨張率の低減予測を凌駕する高効率な熱膨張抑制を達成した。エポキシ樹脂のポリマー鎖の熱運動性を解析し、熱膨張抑制には親水性シリカとポリマー界面の水酸基由来の相互作用(現状では水素結合と推定)が影響を及ぼす可能性が高いことがわかった。 さらに、最終年度実施予定の【第3段階】として、新機能発現に繋がる界面制御型ナノコンポジット調製条件の最適化に関しても検討を開始した。両コンポジット系とも、ポリマーとの濡れ性の悪い親水性シリカを如何に微細均一高充填分散させるかが鍵となるため、【第1段階】の要素研究に立ち返り、ポリマー中でのシリカ解砕がより進みやすい弱集合体の事前調製条件の最適化に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、前年度確立した技術により調製したシリカ/ポリマー間界面制御型ナノコンポジットの各種材料特性が界面相互作用によりどのような影響を受けるかという本研究全体の成否を左右する重要な【第2段階】の要素研究の実施期間に充てられてきたが、先掲の「研究実績の概要」欄でも記した通り、交付申請書記載の当初計画に基づいて着実に成果を挙げてきた。既に、これらの成果は国内学会での発表にとどまらず、国際会議を通して海外に向けても発信されている。とりわけ、国際会議(ECCM2017)において発表したシリカ/エポキシ樹脂系ナノコンポジットの調製と熱膨張抑制に関する成果は、複合則に立脚した従来型複合材料の特性を大きく凌駕する本研究で開発したナノコンポジット系ならでは特性であることからポリマー系複合材料の可能性を広げる新たな設計指針となりうることを示唆するものである。さらにこれらの成果は、国内の化学メーカーとの共同研究にも繋がっており、我が国の産業の成長・発展にも貢献する可能性も有していることから、当初の計画を上回る成果が創出されたと判断した。 加えて、当初の計画では最終年度で実施予定の【第3段階】の要素研究であるシリカ/ポリマー間界面制御型ナノコンポジットの調製条件の最適化についても、予定を繰り上げて着手済みでありスムーズに最終年度の研究に移行できる準備は整っている。このように当初計画の予想を上回る進捗速度で研究が遂行されていることから、最終年度において研究をまとめるのに十分な時間を確保可能な状況にある。以上の理由より、本年度の進捗状況の区分を(1)とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの2カ年の成果により、シリカ/ポリマー間界面制御型ナノコンポジットの調製が可能であり、本研究の提案通りに、この界面でのシリカとポリマーマトリックスの相互作用がナノコンポジット全体の材料特性に多大な影響を及ぼすことを明らかにしてきた。これまでの2年間で順調かつ着実に成果を挙げてきたが、最終年度である平成29年度においては、当初の計画にて【第3段階】の要素研究として設定している、界面制御により新機能を有するナノコンポジットの調製条件の最適化を実施する方針は変わりないが、対象ナノコンポジット系の複合則に基づく特性の予測値を凌駕する機能の発現を目指すべく達成目標を上方修正する。シリカ/エポキシ樹脂系における熱膨張率等、一部特性では既にこの傾向が観測されているが、この特性の発現メカニズムを深耕し、この検討内容をナノコンポジット調製法へフィードバックして、さらなる特性向上のための検討を行うこととする。そのための準備・助走は本年度において先取りで十分なされているので、最終年度が始まり次第、フルスロットルで研究を継続することが可能である。なお、これまでの2年間同様、分析評価の外部委託や研究室外の研究設備の貸与等、研究遂行の効率化にも引き続き留意して研究を遂行する。 最後に3年間の研究成果を総合して、本研究の最終目標「現行の複合材料工学分野への新たな複合材料設計指針の提案」に繋がる次世代型高機能無機/ポリマー系ナノコンポジットの設計・開発への研究展開へのステージアップを念頭に置いた成果のとりまとめを行う。
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