研究課題/領域番号 |
15K06463
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
日原 岳彦 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60324480)
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研究分担者 |
宮崎 怜雄奈 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10756191)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 触媒 / 気相合成 / 燃料電池 / リチウム電池 / 固体電解質 / 負極材料 / 交換結合 |
研究実績の概要 |
本年度は、①合金ナノ粒子による新規燃料電池電極触媒の探索、②軟/硬磁性複合ナノ粒子による交換結合型磁石の研究、③リチウム電池用負極材料としての評価を実施した。 ①の研究では、Pt単体、Pt-M合金およびPt freeナノ粒子を作製し、構造解析とPEFCアノード触媒機能の評価を行った。Pt-Ni, Pt-Zn, Pt-Ni-Znナノ粒子触媒がそれぞれPt単体ナノ粒子と比較してPt組成に対して優れた出力を示した。また、Niに異種金属を添加したPt freeナノ粒子の合成と評価を行った。Ni-Zn-Wナノ粒子触媒がPt freeナノ粒子触媒の中で最も高い最大電力密度を0.93mW/cm2を示した。 ②の研究では、FePt/Fe系とCoPt/Co系のナノ粒子を作製し、構造解析と磁気特性評価を実施した。FePt/Fe系では基板加熱ホルダーをナノ粒子堆積室に新たに設置し、大気解放前に規則相形成を試みるとともに、規則相転移温度の低下を期待し、Ag添加により格子欠陥と格子の弾性エネルギーの影響を調査した。また、ターゲット間距離を変化させ、合金の形成、組成分布に与える影響を調べた。CoPt/Co系ではターゲット間距離6cmで作製したCo58Pt42-16at%Agを773Kで2時間熱処理した試料で大きな保磁力が観察された。 ③の研究では、5μmのSn箔を用いて負極特性の評価を行った。電解質は80Li2S-20P2S5ガラスを用いた。初回充放電後のSn箔と固体電解質との界面では、副反応層は見られず、良好な接触界面が維持されていることが確認され、0.2mA下での放電時も、Snと固体電解質の界面は非常に高レートな充放電を可能とすることが明らかとなった。しかし、放電レートの増加と共に初回負荷逆容量が増加し、Sn中のLi拡散律速により容量が低下していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、目標をほぼ達成するとともに研究過程で着想を得たテーマも実施し結果を得ることが出来たため、おおむね順調に進展していると判断した。 合金ナノ粒子による新規燃料電池電極触媒の探索では、表面エネルギーが大きい高融点金属元素と同時スパッタすることで、Ptシェル層の形成を目的とした研究も実施した。例えば、Pt-M系では、Pt組成が60at%以上でPt単体と同等の触媒活 性を示した。この結果は、粒子サイズ減少によるものと、粒子表面がPtリッチになっているためであると考えられる。また、Pt組成が40at%以下で触媒活性が低かったのは、粒子サイズの増加と粒子全体のPt量低減によるものと考えられる。Pt52Mo48試料のSTEM元素マッピングではPtシェルMoコアとなった理想的なコアシェル構造は確認できなかったが、Ptが60at%以上の試料におけるNafion滴下前後の組成分析と最大電力密度の測定結果は、この組成領域でコアシェル ライクな構造が形成していることを示唆している。 軟/硬磁性複合ナノ粒子による交換結合型磁石の研究では、NdFe12Nナノ粒子の形成を目標に様々な条件下でNd-Fe-Nナノ粒子を作製し、酸化抑制方法、窒素導入方法について検証した。Ar+H2 混合ガスを流入し、還元雰囲気中の試料作製で酸化抑制の効果を確認した。また、到達真空度と窒素流入位置が異なる2つの試料作製装置を用い、試料の酸化を抑制しながら窒素の導入に成功した。 リチウム電池用負極材料の評価では、1.2~0.4μmの膜厚のSn薄膜について充放電特性を評価した。初回充放電効率は60%程度で、明確な膜厚依存性は見られないが、充放電温度を60℃に昇温すると過電圧が減少し容量の増加が確認された。初回充放電の不可逆容量は副反応や電荷移動律速ではなく、Sn電極内のLi拡散と密接に関係している結果である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、本年度に実施した各研究テーマをさらに発展させ、以下の研究を実施する。 ①合金ナノ粒子による新規燃料電池電極触媒の探索:Ptシェル層を形成するプロセスの検討。高融点金属元素との組み合わせでは、一部Ptのシェル層形成が確認されたが、一般的に高融点金属元素は酸化しやすく、酸化は表面エネルギーを下げるためシェル層の形成が阻害されると考えている。このため、耐酸化性の合金系との組み合わせを検討するなど、安定的にPtシェル層が形成される条件をさらに調査する。 ②軟/硬磁性複合ナノ粒子による交換結合型磁石の研究:前年度までの研究結果を顧みると、より強い交換結合を実現すること、そのためFePt合金層と軟磁性層のサイズ制御が肝要であり、これをターゲット間距離を適切に制御することで実現できると予想して研究を行ってきた。平成29年度は、少し発想を変え、NiOやCoO等のネール温度の高い反強磁性体との交換結合が粒子の分布状態によりどのように変化するか調査する。さらにFePt/Fe複合粒子の研究では、ナノ粒子堆積室に設置した基板加熱装置の改良を行い、酸化抑制と規則層形成を両立させた試料作製が行えるようにする。 ③リチウム電池用負極材料としての評価:膜と基板との密着性は充放電効率に影響するが、電極中Li拡散を正確に評価するため、基板を還元雰囲気下でアニールすることで表面酸化膜を除去し密着性を高める。現状のセル構成では60℃以上の昇温は困難であるので、より高温測定が可能でプレス圧の制御が可能なセルを自作する。同時に、電極中のLi拡散を有利にするために、電極と電解質の複合化を検討する。予備実験の段階であるが、Sn粉末と電解質のボールミリングにより、両者が良好に接合した微細な合剤粉末が得られている。今後は、合剤電極のサイクルによる組織変化などを充放電特性と併せて観察する予定である。
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