本研究は,電力制御に用いられる新世代パワーデバイス材料としての期待が高まっているシリコンカーバイド(SiC)上に,従来(900℃~1000℃)よりも低い温度(300℃~400℃)で電極を形成する技術について基礎的な研究を行うことを目的としている。 基板として用いられるSiC単結晶中にボイドなどの欠陥を導入することなく電極を低温で形成する手法として,まずSiC単結晶表面にフェムト秒レーザをライン照射してレーザ誘起改質を導入した後,Ni薄膜を蒸着し,400℃でアニールを行う手法を考案した。実際に適用して,Ni/SiC界面の様相を断面透過電子顕微鏡法により観察した。また,Ni薄膜の厚さが十分薄い場合は,Ni表面側からラマン分光測定が可能になる現象を応用して,低温アニールによりNi/SiC界面に形成されるNiシリサイドの相同定を行った。 適切なレーザエネルギーで照射した照射ライン断面の改質は10nm程度と非常に浅く,SiC基板中には欠陥を導入しないことや,表面に導入したフェムト秒レーザ照射誘起欠陥が,400℃程度の低温アニールでもSiCを分解するNiの触媒作用を強化し,Ni,Si,Cの相互拡散を促進する様相を捉えることができた。 これらの結果は,SiC上への低温アニールによる電極形成技術に道を拓く成果であり,応用物理学会の速報誌であるApplied Physics Express誌に論文発表を行った。 また,本手法をAl/ダイヤモンド界面での拡散促進にも適用して成果を収めており,応用物理学会のJapanese Journal of Applied Physics誌に論文発表を行った。
|