研究課題/領域番号 |
15K06467
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
保田 和則 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (80239756)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | セルロースナノファイバー / 繊維配向 / 流動解析 / 複屈折測定 / 流動誘起配向 |
研究実績の概要 |
セルロースナノファイバー(CNF)を重量分率1%で水に分散させた流体(CNF分散流体)を対象とし,その流体が流路内を流れるときのファイバーの配向状態を,レーザーを用いて計測することに成功した。また,この流体のレオロジー特性を回転型レオメーターで測定したところ,降伏値を持つ流体であることがわかった。 従来,高分子流体を用いて高分子の配向状態を光学的に調べる研究は多数あるが,その場合,高分子の絡みあいが作る流体の内部構造が流動によって生じる複屈折の異方性によって配向状態が調べられてきた。しかしCNF分散流体のようなファイバー分散系では,ファイバー自体のスケールが高分子のように小さくなく,またカーボンナノチューブのような微小なファイバーであっても黒色に着色されていることから分散流体が不透明となり,分散流体中におけるファイバーの配向を調べることは困難であった。しかしCNF分散流体ではCNFが高濃度であっても流体がほぼ無色透明であることをうまく利用することで,本研究のようにファイバー分散流体においてファイバーの配向状態を光学的手法により測定可能とした。 実験流路として矩形断面のまっすぐな流路と急拡大部を有する流路とを用い,CNF分散流体をこれらの流路内に流した。このとき,流動によってファイバーの配向状態が変化するので,配向のこの変化(流動誘起配向)を流れと同時にリアルタイムに測定した。CNF分散流体は非常に高粘度のため流速は遅い。一般に高分子流体の流れでは,高分子は流れ方向に配向することが知られているが,ファイバー分散流体では高粘度ということもあり,流れ方向から大きく傾いた配向状態であることがわかった。しかし,急拡大部においては急減速流れの影響により,配向方向と配向の程度(配向方向にどの程度強く配向しているかの指標)が大きく変化する現象を捉えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の成果は、従来の光学測定装置を用いてCNF分散流体の配向状態を測定することに成功したことである。これまでの研究ではファイバーの配向状態を光学測定することができず,高分子の配向測定にとどまっていた。研究計画では,赤色He-Neレーザーを用いた測定装置で測定できない場合は波長の変更を計画していたが,現有の赤色レーザーにより測定が可能であることがわかったため,今後の研究においてもこのまま赤色He-Neレーザーで測定を続ける計画である。 また,前年度に,流路内における配向測定に先立って実施を予定していた単純なせん断流れ場におけるファイバーの配向測定は一時的に中止した。これは,流路内流れにおける配向測定が可能であることがわかったためにこちらを先行させていたからである。濃厚なファイバー分散流体でファイバーの配向状態を光学的に測定できたのは大きな成果であり,H27年度に韓国で開催された国際会議で発表を行った。 以上のことから,本研究は順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,さまざまな複雑な流れにおける配向状態の測定を行い,流動によって生じるファイバーの配向状態の変化を調べる。また,順序が多少逆転するが,前年度にストレート流路内における測定に先立って実施を予定していた単純なせん断流れ場におけるファイバーの配向の測定を行い,単純流れ場における基礎的な配向の知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,購入を予定していた光学測定装置において,現有の光学測定装置を延命させていることと,レーザーの波長の変更が必要なくなったため,別の色のレーザーの購入が必要なくなったことがあげられる。また,発表した国際会議が韓国と国内で行われたため,旅費が安価で済んだことも理由のひとつである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,国内で開催される国際会議に参加するための旅費に充当し,現有の装置に代わる光学測定装置を購入する予定である。また,高速度ビデオカメラの購入に充当する予定である。
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