研究課題/領域番号 |
15K06471
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
大窪 和也 同志社大学, 理工学部, 教授 (60319465)
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研究分担者 |
藤井 透 同志社大学, 理工学部, 教授 (20156821)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 炭素繊維強化複合材料 / ボルト締結 / 引張りせん断荷重 / ダブルラップ締結 / 締結トルク / 微細き裂 / き裂進展 / 臨界エネルギ解放率 |
研究実績の概要 |
初年度および2年目に得られた結果から,炭素繊維強化複合材料をボルトにより締結する場合には,一般の金属板をボルト接合する場合のような部材表面の摩擦力の効果ではなく,むしろ,ボルト穴の円孔縁の損傷進展がその継手強度や疲労耐久性を支配する事が総合的にわかった,そこで3年目の当該年度には,円孔縁からのき裂の進展現象に着目し,その力学的な原理をより詳しく調べる目標に着手した.研究では,円孔縁に初期に生じる微細き裂の進展を,いわゆる破壊力学で言うエネルギ解放率の指標を用いて評価する手法を採用し,初期き裂の発生位置やボルト締結力を変えた場合のその変化を調べた.さらに研究内容を拡大させ,ボルトを複数本とする場合のそれらの改善効果の違いを検討した. 研究の結果まず,対象とした試験片のマクロな継手効率と,ボルト穴付近でのミクロなき裂進展の指標である臨界エネルギ解放率のとの間には,一義的な正の相関関係が存在することを確認した.次に,いわゆる締め忘れや完全緩みのような状態を想定したボルトの締結力を与えない場合には,初期き裂の条件やボルトの本数の条件に関わらず,継手効率が大きく低下する事を確認した.この原理として,ボルトの締結力による部材の変形拘束により,荷重と垂直な方向(いわゆる90°方向)のき裂進展が抑制され,損傷方向が45°方向に変化する事がわかった.また継手上でのボルト本数を2本とし,荷重方向にレイアウトをして適切に配すると,継手効率は相対的に最大で50.7%向上する事を確認した.この場合,継手の端面近くのボルトよりも,端面より遠いボルトに荷重分担を誘導する事が出来る事も確認した.さらにこれらの変化を臨界エネルギ解放率の変化で定量的に見ると,継手効率の最大の改善効果が得られる条件では,最も不利な条件に比べて約214%の指標値の増加率が得られる事がわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3年目までの具体的な成果としては,初年度および2年目に得られた実験結果を見ながら,炭素繊維強化複合材料をボルト締結する場合に特化したその改善の原理を探求し,理論化に向かう方向に発展させた.特に,多くの炭素繊維強化複合材料特有の損傷形態である微細き裂の進展現象に注目し,破壊力学の手法を応用して指標化出来た点については,研究手上では順調な進展と認識している.これらの項目は,き裂進展様相などを詳細に検討し,炭素繊維強化複合材料のボルト締結の改善原理を明らかにしていく,とした当初の研究計画にも合致している.さらに炭素繊維強化複合材料のボルト締結の設計の考え方にこのような新たな知見を持ち込んだ研究事例はなく,独創的な研究を進められていると認識している. しかし本年度においては改善効果の原理の探求に注力し,当初の研究計画にて立案していた力学的に有利な条件を誘導する具体的な手法の立案や,母材の熱可塑性を積極的に利用した設計手法の開発には至らなかった.特に,強化繊維への力学的に効率的な荷重伝達を誘引し,その結果,き裂進展を抑制できるような総合的な施策が不足していたと自己点検する. この理由としては,特に当初には予期していなかったような円孔縁からの微細き裂の進展自体の現象把握や,その抑制効果の違いの探求が本研究の遂行の上では必要であると判断したからではあるが,結果的に,実験量や検討項目を増やした事は事実である.また本研究で得られる改善効果が,炭素繊維強化複合材料の基本構成条件(いわゆる積層条件や配向条件)の違いによりどのように変化するかについては,昨年度には明らかにする事ができなかった.そこで次項に示す推進方策では,これらの反省点を踏まえて,より具体的で実用的な研究成果を得る事に注力したい.
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今後の研究の推進方策 |
具体的で実用的な研究成果を得るために,これまで得られてきた知見から,力学的により効率的な強化炭素繊維への荷重伝達を誘引し,かつ円孔縁からの微細き裂の進展を抑制できるような具体的な力学構造の探求に着手する.その指標には,直近に把握した微細き裂からの臨界エネルギ解放率の大きさ利用する事とし,理論を実践化するような研究を行う.また特に,熱可塑性の炭素繊維強化複合材料の母材の変形能を積極的に利用し,締結の際に予め,炭素繊維とボルトとの干渉効果が得られるような力学構造を模索し,その具体的な手法として,専用的な補助部材などの利用を試みる.またその力学的な干渉効果を定量化するとともに,き裂進展時に変化するエネルギ解放率の変化なども指標化し,耐久設計規準を構築する. これらを踏まえて最終年度には実用的な継手部の新構造とその耐久設計規準の開発を行い,社会に対して新たな知見を提供する.
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