研究課題/領域番号 |
15K06480
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
門前 亮一 金沢大学, 機械工学系, 教授 (20166466)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Cu-Ni-Sn合金 / 高強度 / 耐応力緩和特性 / 導電性 / 転位密度 / 変形双晶 |
研究実績の概要 |
Cu-Ni-Sn合金に対し高強度と優れた耐応力緩和特性,適度な導電性の実現を目的として,先行研究で,400℃でピーク時効後冷間圧延を行うという著者独自の加工熱処理を適用したCu-21Ni-5.5Sn合金((21-5.5)R-A)とCu-15Ni-8Sn合金((15-8)R-A)に,耐応力緩和特性の向上のために400℃で焼鈍を行うとともに,同様な加工熱処理と焼鈍をCu-9Ni-6Sn合金((9-6)R-A)と今回提案するCu-9Ni-9Sn合金((9-9)R-A)に適用した(ここではwt%を省略).得られた結果は以下のように要約される. (1)上記4種類のCu-Ni-Sn合金を400℃でピーク時効を行うと微細(Ni, Cu)3Sn規則相が析出した.その析出物中のNiとCuの割合は,4種類の合金で異なっていたが,その割合はほぼ1:1であった. (2)(15-8)R-A合金において60%圧延し焼鈍を行ったとき,引張強さは1300MPaで4種類の合金の中で最も高いが,耐応力緩和特性が最も劣る.一方,(21-5.5)R-A合金の焼鈍後,上記合金に匹敵する強度を有し,応力緩和率Rが9%で最も低く,耐応力緩和特性が優れる.しかし,導電率Eは6%IACSと極めて低い. (3)Niの含有量が低い焼鈍後の(9-6)R-Aと(9-9)R-A合金は(15-8)R-A,(21-5.5)R-A合金と比べ強度は若干劣るが,導電率は12%IACS,11%IACSと良好である.耐応力緩和特性も(15-8)R-A合金より優れる.全体的にみて,焼鈍後の(9-9)R-A合金は(9-6)R-A合金より優れた特性を有する. (4)以上の各試料間の強度の違いは,転位密度と変形双晶境界間隔の違いから,また導電率と応力緩和率の違いは,Cu母相中のNiとSnの固溶量の違いから理解することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
400℃でピーク時効後冷間圧延を行い,その後焼鈍を行うという著者独自の加工熱処理法をCu-21Ni-5.5Sn(wt%省略)合金とCu-15Ni-8Sn合金だけでなく,Cu-9Ni-6Sn合金とCu-9Ni-9Sn合金にも適用した.後者2種類の合金は前者2種類の合金より強度は若干劣っていた.それでも後者2種類の合金は市販合金に比べ強度は200MPaも高く,また導電率は同程度であり,耐応力緩和特性は若干劣っているが,バランスの優れた合金と判断される.その中でも今回提案したCu-9Ni-9Sn合金の強度,耐応力緩和特性,導電性は全体的に優れていると言えよう.以上のように本年度はほぼ予定通りに進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
本年度はまず,優れた耐応力緩和特性を示すCu-21Ni-5.5Sn,Cu-15Ni-8Sn,Cu-9Ni-6Sn,Cu-9Ni-9Sn合金において応力緩和機構の解明を行う.緩和機構の解明なしでは耐応力緩和特性の改善は望めないと考えるからである.さらに,Cuの積層欠陥エネルギーを下げる効果があるSiやP等を添加することにより強度向上をもたらす変形双晶を導入しやすくし,耐応力緩和特性に負の効果をもたらす転位の導入をできるだけ減らして,高強度を維持しつつ耐応力緩和特性をさらに改善する方策も検討する.
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