本研究課題ではTi6Al4V合金に対し、アルカリ加熱処理の際の諸条件を検討することによって皮膜の骨親和性向上および為害元素低減を目的としている。 初年度および次年度の平成27年度、平成28年度にて、アルカリ加熱処理の際のアルカリ溶液浸漬時に様々な電位で定電位分極を行った。その結果、各電位で促進される反応、それに伴い網目状酸化物(チタン酸ナトリウム)形成メカニズムについての検討を行い、印加するパルス電位を決定した。その結果、アルカリ溶液浸漬時にパルス電位を印加することで、自然浸漬処理試料と比較し、より緻密な網目状酸化皮膜の形成と為害元素の低減に成功した。SBF(擬似生体液)浸漬によるアパタイト形成評価の結果、パルス電位印加により作製した網目状酸化皮膜はより高い骨親和性を示した。チタン酸ナトリウム皮膜の網目構造をより微細化すること、すなわちハイドロキシアパタイト形成の際のCa吸着サイトとなる酸化皮膜表面積を増大することによって更なる骨親和性向上が期待される。網目状酸化物の形成過程には溶液中化学種の拡散が関係していると考えられる。平成29年度はアルカリ処理に用いる溶液にエチレングリコール(EG)を添加量を変化させながら加えることによって溶液の粘度を様々に変化させ、皮膜形態への影響を検討した。最終年度の平成30年度はアルカリ処理に用いる溶液に有機溶媒であるジエチレングリコール(DEG)を添加し、皮膜形態への影響を検討した。その結果、EG、DEG添加した試料は、網目状構造のチタン酸ナトリウムを形成していたが、添加量増加に伴い網目構造の細密化と皮膜の厚みの減少が認められ、同量のEGとDEG添加量で比較を行うと、この傾向はDEGにて顕著であった。 以上のことから、アルカリ加熱処理の際のアルカリ溶液浸漬時の電位および溶液制御によって網目構造の緻密化が達成できた。
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