昨年度に引き続き局所的な特性を持つワニア関数を用いた電子状態の解析方法に対する検討を行なった。これまでのクラスレート系に対する検討と共に、熱電材料の高性能化の観点からトンネル内にNa原子を内包するNa-Ga-Sn系に注目した。バンド構造について、伝導電子帯は複雑な結晶構造を反映したバレイを多く持つマルチバレイ構造を持つことが示唆される結果となった。価電子帯にも特徴的なバンド構造が現れ、電子間相互作用が強く現れる酸化物系で指摘されるプリン型のバンド構造が示唆される結果となった。 これらの特徴をより詳しく解析するとともに、熱電性能に対する元素置換効果の解析を進めるため、ワニア関数を用いた強結合モデル的な検討を行った。ワニア関数の構築には最局在条件を用い、適切なバンド構造の再現が可能な試行関数の調査を行った。その結果、Na原子については、s軌道のみ。Znについてはd軌道のみ。原子についてはs軌道およびp軌道を考慮し、単位格子あたり108個の関数を用いると良いことがわかった。実際に、これらの条件から伝導電子帯および価電子帯の両方について、密度汎関数法によるコーン-シャム軌道のエネルギーがバンドギャップ近傍で再現性の良い、再局在ワニア関数を得ることができた。この時、注目するSn原子軌道の軌道のひろがりはs軌道で0.28nm、p軌道で0.51nmとの結果であった。更に、熱電特性を決定づけるバンドギャップ近傍のバンドはSn原子軌道が主に関与していることが今回の解析から明らかになったことから、Sn原子軌道のs-p間で最近接に対するホッピングパラメーターを計算したところ、最大で1.6eVとなった。一方、ランダム性に関して、この系はNaの位置にランダム性を持つ。このランダム性が電子状態に及ぼす効果についても検討した結果、Naのランダム性の影響は小さいことを明らかにした。
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