研究実績の概要 |
前年度までに,Fe-30mass%Niオーステナイト合金を溶製し,この鋼に対して,適切な条件でサブゼロ処理とその後の焼鈍処理を施すことでfcc→bcc→fccのマルテンサイト変態・逆変態が部分的に生じ,硬質オーステナイト相の体積率を0,34,50,70,86%と連続的に変化させた(軟質オーステナイト+硬質オーステナイト)複相組織鋼の作製に成功した.そして,引張試験によって,この鋼の力学特性を調査したところ,硬質オーステナイトの体積率増加に起因して降伏強度が増加するものの,その増加挙動は体積率に対して非線形であることが明らかとなった. 本年度は,この降伏強度増加の非線形な第二相体積率依存性について,マイクロメカニクスを用いた解析を行った.具体的には複相組織を構成する軟質および硬質相の力学特性を入力値として,複相組織鋼の力学特性を予測するSecant法を用いた強度予測を実施し,実験と計算の比較を行った.この際,Secant法では構成する軟質相と硬質相のどちらを母相とするかと任意に決定することが出来るため,その母相選択を考慮した強度予測を実施した.その結果,第二相体積率が一致値より小さい場合は,軟質オーステナイトを母相とした計算結果,体積率がこれより大きい場合は,硬質オーステナイトを母相として計算結果と実験結果がよく一致することを証明した.つまり,非線形な降伏強度の増加は,軟質オーステナイトから硬質オーステナイトへの母相遷移に起因しており,硬質相の連結化(パーコレーション)が複相組織鋼の強度特性に大きく寄与することを証明した.
|