研究課題/領域番号 |
15K06489
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森川 龍哉 九州大学, 工学研究院, 助教 (00274506)
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研究分担者 |
田中 將己 九州大学, 工学研究院, 准教授 (40452809)
東田 賢二 佐世保工業高等専門学校, その他, 校長 (70156561)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 結晶性材料 / 加工硬化 / 相当塑性ひずみ / 構造材料 |
研究実績の概要 |
構造体の設計は構成する構造用金属材料の弾性限や強度などの定量的な力学特性の評価に基づいて行われるが,衝突による車輌の変形・破壊や地震による建造物倒壊から人命を守るという観点から,変形抵抗の増加率や変形限界を越えた状態での壊れ難さ等の動的な材料特性の向上が急務である.金属材料は結晶粒微細化や母相における硬質相の分散といった内部組織の制御で強化が図られる.これは材料の内部組織を不均一とすることにより塑性変形中の結晶内部に不均一状態をもたらすことでひずみの勾配を生じさせるという強化原理に基づく.しかし,結晶中のひずみ勾配の増加は材料強化に効果的であると共に,それが過剰になると破壊の起点が生じる要因ともなる.本研究では,材料強化に直結するマクロな不均一変形挙動とナノスケールオーダーの局所領域における破壊起点形成を同時に捉えるマルチスケールマーキング法を提案し,材料変形挙動を統括的に理解すると共に,優良材料開発へ向けての指針構築を目指す. 平成28年度には,試験用材料を軟相であるフェライト中に硬相であるベイナイトやマルテンサイトを分散させた二相組織鋼,および,相の不安定なオーステナイトを含み塑性加工中にそれらが硬いマルテンサイトに変態することで強化に寄与する鋼(フェライト-オーステナイト2相鋼)に設定し,これらに微細なマーカーを付与した状態で塑性変形を加えることで,軟相における局所ひずみの不均一性の発生を捉えることができた.この結果は,引張強度や加工硬化挙動といった巨視的な塑性変形挙動の発現機構を検討するための重要な知見である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究協力者と材料選択について議論検討し,実用鋼のうちフェライトやマルテンサイト,ベイナイトといった内部組織の大きく異なる相を複合させた複合組織鋼をターゲットとすることを決定し試験片形状も併せて検討した.一方,微細マーカーを作製するプロセスの検討を進め,集束イオンビーム法を用いたカーボンデポジションのためのビーム電圧や電流といった各種条件の最適値を探索した.その結果,複合組織鋼の中でも,軟相であるフェライト中に硬相であるベイナイトやマルテンサイトを分散させた二相組織鋼,および,相の不安定なオーステナイトを含み塑性加工中にそれらが硬いマルテンサイトに変態することで強化に寄与する鋼(フェライト-オーステナイト2相鋼)を採用することにした.この材料にマーカーを付与し,通常の引張試験と走査電子顕微鏡内でのその場引張試験の両方に供することで,引張変形中に変態して強化された組織が局所ひずみ分布にどのように影響するか調べることが可能となる.一方,集束イオンビーム法により約130nmの大きさのカーボンによるマーカー点を0.5から1ミクロンの間隔で材料表面に規則的に配置できる条件を見い出すことができた.この手法と,SEM-EBSD法による局所結晶方位および相判定観察を組み合わせることで,マルテンサイトやベイナイトといった硬相に接するフェライト相では,硬相による塑性変形拘束のため局所ひずみが増大する傾向を一部の試験条件において見い出すことができた.また,引張変形中に強化相であるマルテンサイトに変態した領域の周辺のオーステナイトとフェライトの各相でも,初期状態で硬相を持つ材料と同様の傾向が現れ,局所ひずみの不均一性の増大することが明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討で成果を得た電子線リソグラフィと集束電子線ビームを用いた微細マーカー構築法の実験条件の確度を上げ,より精緻なマーカー付与技術の確立を目指す.また,大量の観察データを画像処理して局所ひずみ分布を可視化するソフトウェアの開発を進める.これを用いて引張変形に伴う供試材の局所塑性変形の様相を把握し,ひずみ分布を定量化するとともに統計的な取扱の検討を行う.加えて,走査電子顕微鏡内での引張変形による局所変形のその場観察手法を検討し,定量的評価を実行する体制を整える.
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次年度使用額が生じた理由 |
成果報告予定だった研究会への参加を都合により見送ったため当該年度の研究計画において見積もっていた旅費の一部を次年度使用額とした.
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度前半期に物品費あるいは旅費として使用する予定である.
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