研究課題/領域番号 |
15K06499
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕之 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (10225998)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クリープ / ひずみ加速指数 / 複合負荷 / 変調組織 / 強度特性 / 高温強度 / 寿命予測 / 回転曲げ |
研究実績の概要 |
本研究は,合金にマクロ組織の変調構造を形成し,一般には相反することの多い室温強度と高温強度を同時に改善させようとするもので,実験的な知見を礎として強化の学理を探求しようとするものである。代表者が見出した,回転曲げと引張の複合負荷(RBT負荷)による材料学的な変調組織の形成による強化の可能性を実験的に探索する。 本年度は,(1) 2017アルミニウム合金を対象として,室温時効とRBT負荷の関係を実験的に調べることを目的として,溶体化処理後のRBT負荷前時効時間の影響を調べた。また,(2) 高温強度の指標として,最小ひずみ速度だけでなく,代表者が提案しているひずみ加速指数(SATO-Index)によるクリープ曲線の定量化と内挿・外挿法を用いて,クリープ挙動の解析を行った。 得られた主要な結果は下記の通りである。(1)RBT負荷を加える前の時効時間によって,室温強度と高温強度の指標となる引張強さ,破断のび,最小ひずみ速度はRBT前時効時間の影響を受ける。室温時効中にRBT負荷を加えさらに時効した"時効中RBT材"が高い強度を示すことを実験的に明らかにした。また,RBTが強度に及ぼす影響は,RBT後の応力負荷方向によって異なる場合のあることを見出した。(2)RBT負荷は,クリープ特性に影響を及ぼし,最小ひずみ速度とクリープ曲線形状の双方に影響を与える。ひずみ加速指数は,遷移クリープでRBT負荷の感受性が高く,(一般的な意味での)二次クリープでは感受性が小さい。遷移クリープにおけるひずみ加速指数と最小ひずみ速度には相関が現れる場合があり,クリープ強度を改善する指針としての最小ひずみ速度を実験的に得ることが困難な場合にも,ひずみ加速指数を用いることによって長時間特性の見積もりを行うことができるようになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の通り,RBT負荷による合金の強度特性の改善を目指して実験的にRBT負荷の影響を明らかにしつつある。概ね計画通り進捗している。 強度特性を支配する因子は多岐にわたり,組織因子もまた多様である。それら相互の関係を明らかにするためには,多数の実験的な知見を蓄積し系統的に整理する必要があるが,現時点では一部の効果が明らかにされているに留まっている。RBT負荷が強度に及ぼす影響は複雑な様相を示す場合があり,実験的結果をさらに得る必要がある。 一方,ひずみ加速指数によるクリープ曲線の定量評価は,その有用性が明らかになりつつある。RBT負荷がクリープ曲線形状に及ぼす影響は,ひずみ加速指数を用いると定量的に整理することができ,変形初期のクリープ挙動に及ぼす影響を明確にすることができた。 これらのことから,研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,材料学的な組織の変調構造を明らかにし,強度特性と組織の関係を比較しながら強化指針を探索する必要がある。代表者の所属機関に設置されている材料学的組織を評価するための分析機器の使用に加えて,他の研究機関との連携による組織評価の可能性を検討する。また,強度の指標と組織の指標は多岐にわたり,相互の関係を系統的に明らかにするためには,より単純な系を用いた実験も有効と考えられることから,単相合金による実験の実施も検討する。
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