研究課題/領域番号 |
15K06513
|
研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
草野 英二 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (00278095)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | スパッタリング / フッ化マグネシウム薄膜 / CZTS薄膜 / 負イオン / 阻止電位 |
研究実績の概要 |
高周波スパッタリング法によるMgF2薄膜堆積において,負イオン入射阻止挙動の確認を目的として阻止電極に印加する阻止電位を変化させ,阻止電位が薄膜堆積速度,膜厚分布,および光学吸収に与える影響を検討した.ターゲットとして直径が75 mmのMgF2単結晶を用い,阻止電極の接地電極はターゲット直上15 mmに,阻止電位電極は接地電極の6 mm 上に設置した.高周波電力を100 W,放電圧力を0.8 Paとした.平成27年度の研究成果として以下を得た.●阻止電位を高くしていくと薄膜堆積速度が高くなるとともに,ターゲットエロージョン領域の対面に位置する領域における薄膜のエッチングが抑制された.●吸収係数は阻止電位50 Vにおいて最も小さくなった.高周波電力を100 Wとしたときにターゲットに発生する自己バイアスは,-55 Vであり,阻止電位により負イオンの薄膜への入射が抑制され,薄膜中の光学吸収の原因となる欠陥の形成が抑制されたと考えられる. 高周波スパッタリング法による硫化物堆積においては,Cu2ZnSnS4太陽電池吸収層薄膜のバンドギャップの狭小化を目的として,熱反射壁を用いたCu2ZnSnS4高周波スパッタリング法において放電ガス中への水素添加の影響を検討した.ターゲットは直径が75 mmのCu2ZnSnS4焼結体とし,ターゲットに印加した高周波電力を50 Wとした.組成制御のための熱反射壁温度は400 ℃とし,基板温度は室温~400 ℃まで変化させた.平成27年度の研究成果として以下を得た.●放電ガスであるArガスをAr-10%H2 とすることにより,バンドギャップが1.5 eV程度まで狭くすることができた.●X線回折ピーク幅から評価された結晶子サイズは,放電ガスへのH2の導入により基板温度室温から400 ℃の範囲において20 nm 程度となり,Ar放電時の~16 nm に比べて大きくなった.●放電ガスへのH2の導入により格子面間隔は広くなり,さらにXPSによりO含有率の減少が確認された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度における主たる研究の目標(ゴール)は,フッ化マグネシウム薄膜堆積における阻止電位を光学物性の関係を検討し,ターゲット(駆動電極)直流自己バイアス電位以上の電位を阻止電位として印加することによる欠陥形成抑制を達成し,同時に欠陥形成機構を解明することにあった. ●阻止電位を光学物性の関係の検討 達成度 80 % 阻止電位をターゲット自己バイス以上とした場合には,光学吸収が急激に減少することが観察され,阻止電極への電位印加による負イオン入射の抑制が有効であることが明らかとなり,ほぼ目標を達成できたと判断される. ●欠陥形成機構の解析 達成度 20 % ESR 法による欠陥評価においては十分な感度が得られるだけの条件を見いだせておらず未達に終わった.XPS法による化学シフトの評価による,Mgの化学状態の解析についての事前実験を終了しており,この点では進展した. ●Cu2ZnSnS4 薄膜堆積における放電ガスへの水素添加効果 達成度 100 % 平成28年度に実施する予定であるCu2ZnSnS4 薄膜堆積において,バンドギャップが十分に狭小化できないという問題が前年度研究からの課題として残ったため,事前条件探索としてAr放電ガスへのH2添加による物性,特にバンドギャップへの影響の検討を行った.水素添加によりバンドギャップ幅を1.5 eVまで狭小化できるという結果を得た.実用上の大きな進捗であり,平成28年度の研究の意義を高めるとともに,太陽電池光吸収層として高いポテンシャルを持つ薄膜の堆積を可能とする結果であり,計画以上の進展であったと判断する. 以上より,全体としてはおおむね順調に進展していると判断できる
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度における研究の推進方策に,応募時点での研究計画に対し大きな変更はない. ただし,市場からの要求があるフッ化カルシウム薄膜の高速堆積についての検討を新たに加える.平成28年度の研究計画は以下のとおりである. ① 負イオン入射による欠陥の形成検討においては,負イオンを加速した条件において,薄膜中の欠陥形成を促し,ESRおよびXPSによる欠陥あるいは不定比性の評価を可能とする. ② フッ化物薄膜堆積においては,紫外域において低屈折率を有するフッ化物薄膜としての応用が期待されるフッ化カルシウム薄膜の高速堆積を可能とする阻止条件を明らかとする. ③ CZTS薄膜のスパッタリング法による堆積においては,放電ガス中への水素添加および熱壁使用による組成制御を組合わせ,太陽電池光吸収層として最適なバンドギャップを有する薄膜を堆積する.さらに基板温度を低くした条件での薄膜堆積条件を最適化し,ポリイミド基板上へのMo/CZTS/ZnS/ZnO太陽電池セルの堆積をおこない,セルとしての効率評価をおこなう. ④ データのとりまとめを行い,早い段階で論文としての成果の外部発表をおこなう.
|
次年度使用額が生じた理由 |
ターゲット購入を平成28年度としたために,使用額が計画を下回った.
|
次年度使用額の使用計画 |
フッ化カルシウムターゲットおよびモリブテンターゲットの購入を当初使用計画に加える.
|