研究課題/領域番号 |
15K06515
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
森田 孝治 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主席研究員 (20354186)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化物 / 焼結 / 高温変形 / 通電効果 |
研究実績の概要 |
本研究では、セラミックスの高温現象(特に、変形、焼結や粒成長など)を対象に、第3の要素技術として現在注目されている通電効果(フラッシュ現象)を活用したセラミックスの次世代創製技術の構築を目的に実施するものである。 3年目は、8mol%Y2O3添加立方晶ZrO2(8Y-CSZ)のクリープ変形に対する通電効果の原理解明に関する研究を実施した。その結果、クリープ変形中に電流・電圧を付加することにより、1)フラッシュ現象に達しない低電流・電圧条件下ではジュール熱の発生に伴う温度上昇はあるものの、顕著な変形速度の増加は示さないが、2)フラッシュ現象を発現する臨界値以上の高電流・電圧を印可した場合は、投入出力に応じて約50℃程度の温度上昇が生じ、変形速度が1桁以上増加することを確認した。ただし、3)この変形速度の増加は、通電に伴う温度上昇を考慮しても更に5倍程度促進されており、単なる温度効果のみでは説明できない。4)フラッシュ下で変形させたサンプルの色が、酸素欠陥の導入を示唆する灰色に変色していることから、5)確認されたフラッシュ現象による変形速度の促進現象は、通電に伴う特異な支配因子が存在することを示唆している。変形挙動を精査した結果、6)フラッシュ現象下では、単なる拡散クリープから粒界すべり機構が支配的になっていることから、7)酸素欠陥が導電パスとなる粒界に沿って強性的に導入された結果、粒界すべり機構が活性化され、変形速度(高温可塑性)の向上に至ったものと推察される。 このことから、通電効果を効果的に活用することにより、セラミックスの次世代創製技術に有望であることを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最終年度までに通電効果と変形条件に加え、組織因子の影響の検討まで実施予定であったが、当初予定していたよりも通電条件の制御が難しく、また、実験結果に想定以上のバラつきが認められ、計画に多少遅れが生じている。その結果、組織因子の影響について必要十分な実験成果の取得までには至っていない。 学・協会における口頭発表や論文投稿においては、より精緻な実験結果を提示し、議論を深化させる必要があり、引続き研究を継続予定である。現在は、電流・電圧印可条件の最適化を実現することで、安定して高温試験が実施できる条件が整っており、また、当該研究の補助期間の延長申請も認められたことから、継続研究の実施により当初の研究目的の達成も概ね実現できると想定している。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、本補助事業期間の延長が認められ、継続研究を実施できる条件が整ったことから、当初の研究目的である通電効果の発現機構に対する組織因子の影響解明を目指す。そして、研究期間を通じて得られた検証結果を統合し、精査することで、(1)高温現象に対する通電効果の機構解明と(2) 通電プロセスを活用した新規焼結技術の提唱を目指す。 ただし、本研究を通じて、新規焼結技術の提唱までには新たな検討課題が出てきた。例えば、フラッシュ現象は、僅かな電流変化に強く影響を受けるため、通電効果を検証する上では、フラッシュ現象に対して有効に寄与する電圧/電流の評価が不可欠である。既存研究で実施されている2端子法では、電極での接点抵抗の影響が排除できないため、必ずしも「投入電力=有効電力」ではない。そこで、4端子計測法等の新たな計測システムを整備し、有効電流/電圧と高温特性の評価を基に、通電効果の支配因子解明を目指す必要がある。また、上述の通り、通電効果には、欠陥形成が重要な因子となることが分かってきたことから、ナノレベルの構造解析とも融合させて、通電効果のより詳細な現象解明が必要である。 今後は、上記課題を解決するため、新たな予算獲得を通じて、継続的に研究を実施する体制を再構築する予定である。最終的に、これらの取得知見に基づき、 焼結や変形のみにとどまらず、接合/複合化および損傷の自己治癒/修復技術等の応用を見据えた要素技術の構築までを目指す予定にしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
補助事業期間の延長申請を行ったため。 当初予定していたよりも実験条件の制御が難しく、実験結果に想定以上のバラつきが認められた。学・協会における口頭発表や投稿論文においては、より精緻な実験結果を提示し、議論を深化させるためには若干の追加実験が必要との判断に至った。そこで、学会参加や論文投稿に至るために、補助事業期間の延長申請を行った。
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