研究課題/領域番号 |
15K06542
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
後藤 邦彰 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (20215487)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 圧縮成形 / 成形体強度 / 空気透過法 / 粒子充填構造 |
研究実績の概要 |
本研究では、供給や輸送、圧縮成形などの粉体単位操作において、非球形粒子で構成される粉体の流動挙動の予測の定量的指標となる、粉体の流動のし易さ、いわゆる「流動性」の評価法の確立を目的としている。その評価装置(局所流動性評価装置と称す)の試作を初年度の目標とした。 この装置試作のためには、まず、粒子の実流動操作を調査し、定量化するべき局所流動挙動を明らかにする必要がある。そこで、実流動操作として圧縮成形操作を対象として、ナノオーダーからミクロンオーダーまでのサイズを持つ、球形および非球形の無機物および有機物(糖類)の粒子を試料に一軸圧縮試験を行った。その結果、圧縮速度により成形体の強度が変化する、すなわち、成形体内の粒子充填構造が変化することが明らかとなった。 この成形体内の粒子充填増構造の不均一さのスケールが、局所流動のスケールであるとあると考えられることから、その不均一さのスケール、すなわち、充填構造内の凝集状態の定量化を試みた。その定量化のために、成形体内に空気を透過させ、その透過圧力損失から内部凝集構造を推定できる空気透過法試験装置を作製した。作製した空気透過法試験装置を用いて、粒子凝集構造が形成していることが圧縮試験より示唆されたナノオーダーの無機物粒子の圧縮成形体の凝集径を求めた結果、成形体内では一次粒子が数個凝集した数十ナノの凝集体が充填された構造であることが明らかとなった。このことは、ナノ粒子については、一次粒子を基本単位とするのではなく、数十ナノの凝集体を基本単位とした圧縮流動が起きていることを示唆し、このオーダーの局所流動挙動を定量化する必要があることを示す。そこで、ミクロンオーダーの振動により流体の粘度を測定する音叉式粘度計を、粒子群の局所流動抵抗の定量化を試みた。その結果、粒子種類に依存するが、当該粘度計による流動性の数値化は可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画にある「実流動操作結果との比較による推定値妥当性の検討」に必要な、球形粒子および非球形粒子の圧縮実験を行い、粒子種類による圧縮流動の違いを定量的に把握することができた。一方、主たる目的である「局所流動試験装置の試作」を当初の計画通り開始したが、装置設計段階において、定量化の対象となる「局所流動」の規模が必要となった。研究計画時には一次粒子の大きさを基準と考えていたが、実流動操作として検討した圧縮実験の結果から、特にナノ粒子においては凝集粒子として挙動している可能性が示唆された。粒子が凝集粒子として挙動していた場合、局所流動評価装置の大きさも凝集粒子径を基準とする必要がある。そこで、圧縮流動時の凝集粒子径の定量化のために、空気透過法試験装置を作製した。この新たに作成した試験装置により、圧縮後の成形体内の凝集粒子サイズを把握することができた。 局所流動性評価装置の試作については、設計段階でミクロンオーダーの振動により流体の粘度を測定する音叉式粘度計の流用・改造を着想した。そこで現有の音叉式粘度計で予備試験を行った結果、当該粘度計による流動性の数値化は可能であることが示されたが、一方で、ナノオーダーからミクロンオーダーまでのサイズを持つ種々の粒子に適用するためには、装置の改良が必要であることも明らかとなった。その改良法の一つとして、加振による流動化を試み、適用粒子範囲の拡大に成功している。しかし、測定結果の物理的意味の解釈も含め、評価装置として完成には至っておらず、2年目での更なる装置の検討が必要である。 以上のように、当初計画に沿って研究を開始でき、かつ、その研究により新たに見つかった課題の調査を通して局所挙動の規模という新しい知見が得られた。一方で、その新規の課題のため、局所流動試験装置が完成に至らなかった点を考慮すると、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、初年度はモデル系として数ミクロンから数十ミクロン程度の球形粒子を用い検討することを予定していた。その試料粒子の選定・入手時に、28年度以降に田尾将とするサブミクロンオーダーの粒子および、より小さなナノオーダーの粒子を入手することができた。これら微小粒子も含めて圧縮実験を行ったことにより、初年度計画の遂行において当初想定していなかった結果である、ナノオーダーの無機物粒子では数十ナノの凝集体を基本単位とした圧縮流動が起きていることが示唆され、この規模の局所流動挙動を定量化する必要があることが明らかとなった。この成果は、当初計画では、サブミクロン領域の微小粒子を対象としていた、28年度の検討内容である。すなわち、27年度計画の「実流動操作結果との比較による推定値妥当性の検討」については、計画を前倒しして実施したことになる。 この検討により、新たな課題としてナノ粒子凝集体サイズの定量化が見つかり、その課題解決のため、当初計画にはなかった空気透過法試験装置を試作した。このため、当初計画の「局所流動性評価装置の試作」については、若干の遅れが生じたが、一方で、評価装置設計と、圧縮実験を並行して行ったことにより、28年度に検討予定であった「サブマイクロメートルオーダーの粒子サイズに合わせた評価装置の作製」が不要となる、現有装置の流用・改造により評価装置の試作を開始した。これまでに、改造により得られた装置で流動性の定量化が可能であることが確認されている。 よって、28年度は、当初予定どおり、27年度の成果を踏まえて、球形・非球形を含むナノオーダーからミクロンオーダーまでの種々の粒子について測定が可能となるように、局所流動性評価装置を改造し、完成させる。その評価結果と、27年度に既に取得した実流動操作結果(=圧縮試験結果)とに比較により、評価結果の妥当性の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
「局所流動試験装置の試作」を当初の計画通り開始したが、その装置設計段階において、定量化の対象となる「局所流動」の規模が必要となった。本年度の計画にある「実流動操作結果との比較による推定値妥当性の検討」に必要な、球形粒子および非球形粒子の圧縮実験を実施したところ、特にナノ粒子においては凝集粒子として挙動している可能性が示唆された。そこで、圧縮流動時の凝集粒子径の定量化のために、新たに空気透過法試験装置を作製した。 一方、当初計画にある局所流動性評価装置の試作については、設計段階でミクロンオーダーの振動により流体の粘度を測定する音叉式粘度計の流用・改造を着想した。そこで現有の音叉式粘度計で予備試験を行った。以上のように、研究の進展により新たな課題を発見し、その課題克服のための試験装置作製と、当初計画の評価装置試作において、研究成果を踏まえた設計変更をしたが、次年度使用額生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
(理由)に示したように、流用・改造による評価装置試作の作製が、新たな課題のための検討のため、若干遅れたことにより経費に残額が生じたが、現在改造を行っているため、経費残額は次年度当初に初年度経費は計画通り、局所流動性評価装置作製のために使用する予定である。 なお、平成28年度に使用を予定していた経費は、計画通り使用予定である。
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