本研究では、極細の中空または中実ファイバーを利用することで、生体毛細血管網に酷似した流路ネットワークならびにそれを利用した重厚三次元組織体創製技術の確立を目指した。 中空ゲルファイバーを血管として利用する際、その中空部内表面に血管内皮細胞を固定化することが求められる。ゲルファイバー材料として用いるアルギン酸ゲルの細胞接着性は極めて低い。そこでまずは、細胞接着性のあるゼラチンやコラーゲンをファイバー内に組み込み、それらをトランスグルタミナーゼ等を用いて架橋することで、長期間安定的に細胞接着性を有する中空ゲルファイバーを作製した。その中空ゲルファイバーのゲル部分に肝癌細胞であるHepG2細胞を包括し、それを積層することで、毛細血管様流路であるファイバーの中空部が0.1 mm間隔で正確に配置された構造体を作製した。その中空部に培地を流通させながら培養したところHepG2細胞は増殖した。しかし、その増殖速度は極めて遅かった。ファイバーのゲル部分の液化によりHepG2細胞の増殖速度を上げることを試みたがファイバーの強度が大きく下がり、中空構造を保つことができなかった。そこで次に極細中実ゼラチンファイバーを利用して毛細血管網を再現する手法に取り組んだ。具体的には、wet spinning法を利用することで、直径0.01 mmのゼラチンゲルファイバーを作製し、それを綿飴状にした後、コラーゲン水溶液に加え、その溶液をゲル化させた。その後、温度を上げることによりコラーゲンゲル中のファイバーを溶解させることで毛細血管様流路にすることができた。本年度は、その毛細血管様流路内に長期間、培地を流通させることができる培養装置を作製した。さらに、その装置内で毛細血管様流路内に1週間培地を流通させることで、あらかじめコラーゲンゲル中に封入していたHepG2細胞が増殖することを確認できた。
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