研究課題
現状のメタボローム解析技術により取得できる定量情報は,「相対定量」に制限されているため,細胞内の精確な代謝物濃度の決定には至っていない.また,相対定量情報では,他施設での異なる分析装置や異なる分析手法で取得したデータと直接比較検証できないため,生理学的・生化学的考察を深めることが困難である.そこで,当該研究では,原核細胞から真核細胞に至る幅広い生物種に適用可能な包括的な安定同位体標識代謝物の調製法の開発を軸に,試料調製,高感度定量メタボローム分析,定量データ解析手法を含む「in vivo安定同位体標識代謝物を用いた定量メタボロミクス技術の開発」に取り組む.平成27年度は,イオンクロマトグラフィー高分解能質量分析 (IC/Q Exactive MS) による陰イオン性代謝物の網羅的測定法について検討した.有機酸,糖リン酸,ヌクレオチド,補酵素など約200種の代謝物について,Q Exactiveにおけるイオン化条件を最適化するとともに,精密質量MS及びMS/MSスペクトルライブラリーを作成した.続いて,IC分離条件の最適化を行ったところ,クエン酸やイソクエン酸,あるいはヘキソース一リン酸の各種異性体のクロマト分離を達成できることが分かった.また,ATPやNAD(P)+, NAD(P)Hなどは生体内のエネルギー獲得や酸化還元バランスを考察する上で重要な物質であるが,従来分析手法では再現性と検出感度の点で課題が残されていた.一方,IC/Q Exactive分析法においては,これらの代謝物についてもシャープなピーク形状を保ち,高感度の測定が可能であることを見出した.開発した分析手法を用いて微生物や動物培養細胞,体液などの生体試料の分析を行ったところ,生体試料においても保持時間及びピークエリアの再現性は極めて高く,また精密質量をベースとした高精度の化合物同定,高感度測定が達成できることを示した.
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は,課題Ⅰである「親水性代謝物の高感度分析手法の開発」を達成するためにイオンクロマトグラフィー高分解能質量分析 (IC/MS) による陰イオン性代謝物の網羅的測定法の開発を実施した.開発したIC/MS分析手法は,網羅性,高感度,及び高い分析再現性を併せ持った実用的な新規のメタボローム解析手法であり,本研究を遂行する上で、きわめて重要な基盤分析技術になると考えられる.さらに,課題Ⅱの「微生物における定量メタボローム分析手法の開発」にも着手しており,芽酵母(S. cerevisiae BY4742)を用いた包括的な標識代謝物の調製手法を検討中である.以上のことから,実験計画の進歩状況としては,「おおむね順調に進展している」と判断している.
平成28年度は,平成27年度に開発したイオンクロマトグラフィー高分解能質量分析による陰イオン性代謝物の網羅的測定法を用いて,課題Ⅱの「微生物における定量メタボローム分析手法の開発」を実施する.さらに,課題Ⅲの「動物試料における定量メタボローム解析分析手法の開発」についても同時並行で研究を進める.また,アミノ酸やポリアミン,核酸塩基,ヌクレオシド,などの陽イオン性を測定対象としたメタボローム分析手法についても新たに検討を行う予定である.
課題Ⅱを実施するために購入を予定していた試薬類の納品が大幅に遅れてしまい,年度内の入手が困難となったため.
平成27年度から繰り越した研究費においては,課題Ⅱ「微生物における定量メタボローム分析手法の開発」及び課題Ⅲ「動物試料における定量メタボローム解析分析手法の開発」に関する研究を実施するための消耗品試薬購入及び培養設備に使用する.さらに,平成28年度では,平成27年度の結果を踏まえ,新たに,陽イオン性代謝物の分析系構築を予定している.分析系を構築するための標準試薬は概ね使用可能な状態にあるが,一部の標準試薬については当該年度の予算を使用して購入を計画する.また,まとまったデータは,学会発表や論文発表していく予定にしており,それに関わる諸経費も,平成28年度の予算を使用する.
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