研究課題
現状のメタボローム解析技術により取得できる定量情報は,「相対定量」に制限されているため,細胞内の精確な代謝物濃度の決定には至っていない.また,相対定量情報では,他施設での異なる分析装置や異なる分析手法で取得したデータと直接比較検証できないため,生理学的・生化学的考察を深めることが困難である.そこで,当該研究では,原核細胞から真核細胞に至る幅広い生物種に適用可能な包括的な安定同位体標識代謝物の調製法の開発を軸に,試料調製,高感度定量メタボローム分析,定量データ解析手法を含む「in vivo安定同位体標識代謝物を用いた定量メタボロミクス技術の開発」に取り組む.平成28年度は,in vivoラベリングした大腸菌や藍藻抽出液と昨年開発したIC/Q Exactive MS分析法を組み合わせることで,陰イオン性極性代謝物の定量メタボローム分析プロットフォームを開発した.また,定量メタボロームの測定対象を拡充するために,アミノ酸やポリアミン,核酸塩基,ヌクレオシド,などの陽イオン性を測定対象としたメタボローム分析手法であるPFPPカラム担体を使用した液体クロマトグラフィー高分解能質量分析 (PFPP-LC/Q Exactive MS) についても検討した.さらに,脂質分子の網羅的かつ定量的な観測を目指し,超臨界流体クロマトグラフィー三連四重極型質量分析 (SFC/QqQ-MS) を用いた定量リピドーム解析手法の開発も行った.順相カラムを使用したSFC分離によって各種脂質クラスのクロマト分離を20分で達成するとともに,脂肪酸側鎖の異なる各種構造異性体については質量分離 (MRM) によって識別した.さらに,各種脂質クラスに対して適切な内標を抽出時に添加することで,生体試料中の個々の脂質分子の濃度を高精度に算出することに成功した.
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は,昨年度開発した陰イオン性代謝物の網羅的測定法とin vivo標識微生物抽出液を使用して中央代謝経路を中心とした定量メタボローム解析手法を開発した (研究課題I・II).研究課題Iをさらに発展させるために,陽イオン性極性代謝物および脂質の分離・分析手法についても新たに開発を実施した.また,定量メタボロームデータの解析手法についても,12C代謝物,および,13C標識代謝物情報を含む生データから,ピーク検出,ピーク同定,ピークエリア値算出,各代謝物の12C/13Cピークエリア値計算,絶対定量値算出を自動に行うために,データベース構築,各種パラメータ設定についてもおおよそ完了した (研究課題IV).以上のことから,実験計画の進歩状況としては,「おおむね順調に進展している」と判断している.
研究課題I・II・IVは概ね計画通りに進展したため,平成29年度は,課題IIIの「動物試料における定量メタボローム解析分析手法の開発」に集中して研究を進める.また,当該研究計画で予定していなかった安定同位体代謝物の包括的in vitro調製法についても検討を進める予定である.
研究課題IIIを実施するために購入を予定していた試薬類およびIC/Q Exactive MSの消耗品類の納品が大幅に遅れてしまったため,年度内の入手が困難となった.
平成28年度から繰り越した研究費においては,課題Ⅲ「動物試料における定量メタボローム解析分析手法の開発」に関する研究を実施するための消耗品試薬 (特に標識グルコースおよびアミノ酸) 購入及び培養設備に使用する.また,まとまったデータは,学会発表や論文発表していく予定にしており,それに関わる諸経費も,平成29年度の予算を使用する.
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 4件、 招待講演 6件) 図書 (3件) 備考 (2件)
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