研究課題/領域番号 |
15K06562
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研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
車田 研一 福島工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (80273473)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | hard solid scale / landfill site / drainage pipe / abundant rainfall / leachate / calcite / anaerobic metabolism / biomineralization |
研究実績の概要 |
①いわき市内郷宮地区に所在する管理型廃棄物最終埋立処分場の排水管から閉塞の原因となる硬質スケールをサンプリングし,その性状と化学組成を解明した。硬質スケールは劈開性を示す。これはスケールが先ず排水管内壁に核発生したのち管の中心線方向へ円筒対象に成長することを示唆する。スケールはサンプリングされた時点では黒色と硫化水素臭を呈する。これはスケール中に鉄などの硫化物が含有されることを示唆するがX線回折測定により検知されるほどの量ではなかった。硬質スケールは炭酸カルシウムの最安定結晶であるカルサイトのみから成っており,これは多くのほかの埋立処分場と同様だった。 ②埋立層底部からの浸出水に含まれる代表的な金属イオンの濃度を測定した。カルシウムイオンの濃度が年間をつうじて約2kg/m3と高く他の金属種の濃度はいずれもカルシウムよりも2桁低かった。これは硬質スケールが実質的には炭酸カルシウムのみから成るという結果と矛盾しない。硬質スケールの原因となるカルシウムイオンの供給は完全に浸出水に因る。他方炭酸イオン(二酸化炭素)に就いては空気からの溶解と微生物などの代謝の2種類の因子が考えられた。一箇月に亙る曝気をおこなったが全くスケールが形成されなかったことから,後者の微生物の代謝を想定した。当該の浸出水中の有機態窒素の濃度は100mg/L~200mg/Lであり富栄養化がみられることから微生物の代謝の関与が推測された。 ③硬質スケールの形成と,近年着目されるコンクリート,土中でのバイオミネラリゼーションの形態的類似性に着目して操作型電子顕微鏡による採取スケールの微構造観察をおこなうとバクテリア類の生息の痕跡痕が多数見いだされた。このことから今後はバクテリアの代謝による二酸化炭素の発生が硬質スケール発生の重要な因子であるという前提で浸出水中の溶解カルシウムイオン濃度を低下させる方策が需要になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
山がちな国内のほとんどの管理型廃棄物最終埋立処分場は上方へ数百メートル四方の巨大な開口部を有する擂り鉢型構造をしており一箇所の処分場あたり開口部から年間数十万トンの雨水が降り注ぐ。降水は遮水工にさえぎられて山の自然土壌には浸透せず処分場底部に設置された排水管より外界へ排出される。排出された水は廃水処理施設で環境基準を充たすように処理されたのち河川などへ放流される。この廃水処理施設は必ずしも埋立処分サイトの近傍に設置することはできず,処分場底部から廃水処理施設までへの排水管は最低でも長さ数百メートルにおよぶ大規模なものになる。この廃水運送管の内壁には年間最低でも数ミリメートルの厚さの硬質スケールが形成される。このため排水管を設置してからわずかに3年から5年のあいだに管のスケール閉塞がおこる。処分場内の埋立層中の含水率が極度に増加するのは避ける必要があり,排水管を交換する必要がでる。この交換は大規模な工事を伴い管理型埋立処分場のメインテナンス上重い負担となる。そこで排水管内での硬質スケールの形成要因を解明し,その形成速度を有意に低減する手法を見いだし確立することが本プロジェクトの目的である。 まず研究協力者のひめゆり総業㈱が現在実際に操業しているいわき市内郷宮地区に在る管理型廃棄物最終埋立処分場において排水管内から硬質スケールを採取し,その構造と化学的組成の解析をおこなった。硬質スケールは管内壁から中心線へむかって薄層が積み重なって成長した痕跡を有し,明確な劈開性がある。スケール形成の端緒となる核発生は先ず管の内壁面でおこり,管の中心へむかってスケールが生長することがわかった。採取されたスケールは黒く硫化水素臭を放ち,金属硫化物を含むことが示唆されたが,エックス線回折で検知できる量的水準ではなく,スケールじたいはほぼ完全に炭酸カルシウム(結晶系はカルサイト)から成っていた。
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今後の研究の推進方策 |
硬質スケールの形成の化学的機構を解明することが対策立案上必須である。そのため,以下の推論を検証することが現在の当面の目標である。 埋立処分場底部からの浸出水に含まれる金属イオンの濃度を測定したところ,カルシウムイオンが時季に依らず約1立方メートルあたり2kgという高濃度で含まれていることがわかった。このことから,被廃棄物層中を流下する雨水が大量にカルシウムイオンを含んだ被廃棄物層に接触して溶け出したカルシウムイオンがスケール形成の主因であることが推測される。このほかの金属イオンはマグネシウムや鉄などの土中に遍在するものを含めても2桁以上濃度が低く,硬質スケールの形成の要因にはなっていないことがわかる。そこで,浸出水そのものをサンプリングし乾燥固化した固体のエックス線回折を測定したところ,炭酸カルシウムの結晶はまったく含まれておらず,塩化ナトリウム,塩化カルシウムが主体であった。(塩化ナトリウムに関しては当初より2wt%ていど浸出水に溶解していることが知られている。)この結果は,硬質スケールを構成する無機塩である炭酸カルシウムは浸出水中に最初から含まれているのではなく,浸出水中で何らかの化学反応により生成した炭酸イオン(二酸化炭素)と溶解しているカルシウムイオンの反応により炭酸カルシウムが生成することを示している。 浸出水中への二酸化炭素の供給要因は,①空気からの溶解,と,②浸出水中での微生物などの代謝,の2種類が考えられる。この点についてはすでに予備実験が開始されており,前者の可能性はひじょうに小さいことが示唆されつつある。いくつかの予備実験の結果は後者の浸出水中での微生物の代謝が炭酸カルシウム系スケールの形成に大きな役わりをはたしていることを示唆している。代謝の原因物質は微生物の栄養源に相当しており,現時点ではこれは浸出水中の溶解性有機体窒素(DON)であると推測される。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入物品の価格に些少の差異が生じたため,4282円の次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
額は4282円と些少であるため,平成28年度購入予定の消耗品への支弁などに充当する。
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