研究課題/領域番号 |
15K06565
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
島津 省吾 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10178957)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニッケル系合金触媒 / 共役系不飽和カルボニル / 不飽和アルコール / 不飽和ニトロ化合物 / 不飽和アミン / 非共役系不飽和カルボニル / 官能基選択的水素化反応 |
研究実績の概要 |
本年度は、安価な合金あるいは合金前駆体を独自の方法で創製し、配位化学的な考え方に基づいて、極性の高い官能基のみを水素化する官能基選択性の高いNi系合金触媒の開発を行った。すなわち、高い水素化活性を持つが官能基選択性に乏しいNiに第二金属種のSnおよびFeを添加し、水熱合成で合金触媒を作成したところ、不飽和カルボニルを水素化すると不飽和アルコールのみを選択的に得ることに成功した。また、不飽和ニトロ化合物を水素化すると不飽和アミンをほぼ定量的に得た。何れの場合も、無極性のC=C結合よりも、C=OあるいはNO2の極性のある官能基を選択的に水素化することに成功した。 1. Ni-Sn触媒による不飽和カルボニルの水素化: Ni-Sn触媒では水素圧3MPa、383~453Kの温度範囲でフルフラールの水素化反応を行ったところ、Niのみでは完全水素化生成物のテトラヒドロフルフリルアルコールが生成したのに対し、Snを添加したN-Sn合金では99%の収率でフルフリルアルコールが得られた。すなわち、C=Oのみが水素化されるという、官能基選択性を示した。他の基質に対しても、高い選択性を示した。特に、TiO2に担持した触媒は、高い選択性のみならず高活性であった。 2. Ni-Fe触媒による不飽和カルボニルの水素化: Ni-Fe触媒も同様にC=Oを選択的に水素化する傾向をしめした。しかしながら、Ni-Sn触媒と比較して基質により選択性に差がみられた。すなわち、芳香族系アルデヒドおよびケトン、非共役系不飽和アルデヒドおよびケトンに対しては、高いC=O水素化選択性を示したが、2-cyclohexen-1-oneなどの共役系不飽和カルボニルに対しては、選択性が大幅に低下した。 3. Ni-Sn触媒による不飽和ニトロ化合物の水素化: C=C結合とNO2結合を同時にもつ4-nitrostyrene、3-nitrostyreneを基質に用いると、選択的にNO2を水素化した相当するaminostyreneを選択的に生成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ni系合金として、Ni-Sn合金、Ni-Fe合金およびそれぞれの合金をTiO2、Al2O3、MgOなどの金属酸化物に担持した触媒を調製し、水素化反応を行った。また、不飽和カルボニル水素化触媒反応についても、90%以上の選択性を得た。さらに、Ni-Sn触媒を用いた不飽和ニトロ化合物の水素化においても、選択的にNO2を水素化することを見出した。今後、Ni合金を担持することによりナノサイズに微粒子化することで、活性の向上および選択性への影響を検討する。しかしながら、Ni-Fe触媒においては、共役系不飽和カルボニル化合物を用いた際に、その選択性が著しく低下することが判った。その原因として、1. 初期に選択的にC=Oを水素化し、その後異性化して飽和カルボニルが生成したのか、2. 初期からC=OとC=Cを水素化しているのかを詳細に調べる必要がある。 また、反応機構については計画通り、Ni系合金触媒が選択的にC=Oに吸着していると予測しており、基質の触媒表面への吸着状態をFT-IR測定により検討し、反応機構を明確にする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、以下の5つの項目について検討する計画である。 1. 極性基および非極性基の区別無く不飽和結合を水素化する選択性の低いNi金属触媒に対し、正電荷を帯びやすい第二金属(元素)を添加した合金触媒は、極性のある不飽和結合を選択的に水素化することが判明した。この反応機構を推定するために、種々の基質の基質の触媒表面への吸着状態をFT-IR測定で詳細に検討し、反応機構を提案する予定である。2. Ni合金を金属酸化物に担持して、活性種のサイズを小さくすることによる活性および選択性への影響を検討する。さらに、活性種と担体との相互作用の強さの影響も検討する。3. 基質の形状および官能基による違いをより詳細に検討する。さらに、反応温度、水素圧、基質濃度などの反応性に対する影響を調べる。4. Ni-Fe合金触媒は、芳香族系カルボニル化合物、非共役系不飽和カルボニルの水素化反応において、C=CよりもC=O不飽和結合をより水素化しやすいという選択性を示した。一方、共役系不飽和カルボニルの水素化反応では、C=O基に対する水素化選択性が著しく低下した。この原因として、(1)初期に選択的にC=Oを水素化し、その後異性化反応により飽和カルボニルが生成するのか、(2)初期にC=OとC=Cの両方の結合を水素化するのかを触媒反応の経時変化による生成物の変動を検討して検討する。5. Sn、Fe以外のNiと合金を形成する第二成分を添加した新たな合金触媒を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は触媒調製と反応を主に行い、触媒活性と酸強度および酸量との相関性を見る予定であったが、酸強度および酸量測定機器の購入が年度末になった。そのため、平成28年度にその相関性を検討するために、測定用フローガスおよび吸着ガスなどの購入を次年度に行うため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越した79,680円の予算は、主に以下のキャリアーガスおよび吸着ガスを購入するために用いる。1. 種々の金属酸化物に担持したNi系合金触媒ナノ粒子の触媒活性と酸強度および酸量との相関性を見る予定。測定には、Heガスをキャリアーとして使用する。2. 担持触媒では、Ni金属の粒径を調べるために、COガス、H2ガス吸着を行う。3. N2ガスを吸着させて比表面積を調べる。4. CO2ガスを吸着させて触媒の塩基点を調べる。 また、反応雰囲気の水素ガス濃度を変えるために、種々の割合の混合ガスを用いた雰囲気下での反応も行う予定である。
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