研究課題/領域番号 |
15K06570
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
今井 裕之 北九州市立大学, 国際環境工学部, 講師 (70514610)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 酸性質 / ゼオライト / 脂肪酸エステル / 水素化脱酸素 / 酸塩基処理 |
研究実績の概要 |
本研究では、広範な触媒反応に応用される特異的な固体酸性を持つゼオライトと水素を活性化する能力を持つ金属触媒を複合することで、新たな触媒機能を持つ固体触媒の開発を目的とする。本年度は、ゼオライトの酸性質(酸量、酸強度、酸の種類)が複合する金属粒子および触媒反応性能に及ぼす影響を解明するため、ゼオライトの酸性質を変化させ、複合触媒における金属粒子の物性および触媒反応性能の比較検討を行った。 酸性質が及ぼす影響に着目するため、大細孔を有するベータゼオライトを対象として酸性質の変化および金属触媒との複合を行った。酸である硝酸、塩基である有機アンモニウムヒドロキシドまたは水酸化ナトリウム水溶液で洗浄する簡便な手法によりベータゼオライトの酸量・酸の種類を変えることができた。また、本手法では骨格構造や表面積などの物性は維持できることから、酸性質の変化の影響に着目できる。洗浄後のゼオライトと金属(NiとMo)との複合では、酸性質、特に酸の種類が金属粒子の生成に影響を及ぼし、ゼオライト中で剥き出しになっているAlの割合が多い場合に、数nmの金属微粒子が生成することを見出した。 合成した複合触媒は、脂肪酸エステルの一種であるラウリン酸メチルの水素化脱酸素により触媒反応性能を評価した。洗浄溶液の種類によらず、洗浄したゼオライトを用いることで反応活性が向上した。また、エステルの水素化では、通常、エステル中のカルボニル基の脱離が優先するが、洗浄したゼオライト用いることで、困難とされるカルボニル基の水素還元が、脱離よりも優先して起こることを見出した。 ゼオライトの酸性質が金属粒子の生成および反応ルートに影響を及ぼすこと、また、酸・塩基水溶液での洗浄だけで複合触媒の物性が大きく変化することが示された。これらのことは、複合触媒の機能性の制御には、ゼオライトの酸性質の精密な制御が重要になることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ゼオライトの酸性質と複合する金属粒子の物性および複合触媒の触媒反応性能との相関性を解明し、新たな機能を持つ複合触媒の開発を目的としている。そのため、本年度は、ゼオライトの酸性質を変化させ、酸性質の違いによる複合する金属粒子の物性および触媒性能への影響の検討を行うこととした。 本年度は、ベータゼオライトを対象とし、同一構造での酸性質の変化の影響を比較した。まず、ベータゼオライトを酸である硝酸および塩基である有機アンモニウムヒドロキシドと水酸化ナトリウムの水溶液を用いて洗浄を行い、酸の量および酸の種類を変化させたゼオライトを合成した。これらのゼオライトに金属を複合させ、複合触媒における金属の粒子サイズおよび電子状態を分析することで、酸性質と金属の物性との関係性について知見を得た。合成した複合触媒を用いて、数気圧の水素圧下で、脂肪酸エステルの一種であるラウリン酸メチルの水素化脱酸素を行った。この反応において、ゼオライトの洗浄が反応活性の向上およびエステルのカルボニル基の水素還元を促すことが示され、触媒の酸性質が反応ルートに影響を及ぼすことを示した。 当初、酸性質は大きく変わることで、金属粒子および反応性能への影響が見られると予想し、シビアな条件でのゼオライトの処理も予定していた。しかし、マイルドな条件での処理で十分に影響が現れ、また、酸性質のわずかな変化が触媒機能の向上に繋がったことは予定以上の成果であった。このため、予定していた処理方法のいくつかを省略することになった。一方で、酸性質のわずかな違いが触媒機能の大きな違いを生み出したことから、その相関関係の解明のための新たな方策を考える必要が生じた。以上より、全体的に概ね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度において、酸または塩基水溶液を用いた洗浄によるゼオライトの酸性質の変化が、金属粒子の物性および脂肪酸エステルの反応ルートに影響を及ぼすことを見出した。これらの結果を踏まえて、酸性質の各要素(量、種類、強度)と複合する金属粒子の物性および脂肪酸エステルの水素化脱酸素における触媒性能との相関関係を詳細に検討していく。酸性質の変化のための処理では、洗浄に用いる酸および塩基水溶液の濃度を変化させ、酸の量および酸の種類の割合を段階的に変化させる。また、酸性水溶液での洗浄と塩基性水溶液での組み合わせを検討し、それぞれの処理によりゼオライト中のAlまたはSiを除去した後のさらなる洗浄による酸性質への影響を検討する。高温での水蒸気処理では酸・塩基での洗浄とは異なり、SiやAlの脱離は起こらずに結合の開裂を起こすことから、SiやAlの結合開裂による酸性質の変化を検討することができる。 各種処理を施したゼオライトの酸性質を含む物性評価を行い、本年度と同様に金属を複合させて複合触媒を合成する。これらの複合触媒の金属粒子の物性およびラウリン酸メチルの水素化脱酸素反応における触媒反応性能を評価し、新たな手法での処理によるゼオライトの酸性質の変化が各種要因に及ぼす影響を検討する。また、触媒反応に用いる脂肪酸エステルの種類を変えて性能評価を行う。ラウリン酸メチルは脂肪酸部分が飽和炭化水素であるが、脂肪酸部分に不飽和結合を持つ化合物、例えばオレイン酸メチルを用いることで、カルボニル基の部分と不飽和結合の部分との間の反応性の違いに酸性質が及ぼす影響を比較検討することができる。 進捗状況により、触媒反応に用いる原料として、脂肪酸エステルより反応性が低いトリグリセリドを用いて触媒機能性の評価を行う。また、構造の異なるゼオライトを用いることで、特に酸強度の違いによる複合触媒の物性・反応性能の比較検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
追加採択であったため、本年度後半になるまで本助成金の使用がもともと予定になく、また、それまでの期間、計画書に記載されていた実施計画は見合わせられた箇所もあった。本年度後半以降に本助成金が使用可能になり、改めて実施計画を実行するにあたり、実施内容と実施予定項目の見直しを行った。当初の計画では、ゼオライトの処理、複合触媒の調製、複合触媒の物性評価と触媒反応性能評価の流れで研究を進める予定であった。本年度は、実施計画を進めて、流れに則った一通りの成果を得るに至ったが、実施期間の制約とそれに伴うより精密な実験の実施の遅れおよび実施計画の再調整のため、助成金の使用にも当初計画からのずれが生じてしまった。特に、研究を進展させるにあたり、大型物品のスペックや内容の再検討が必要となり、購入計画を延期したことが助成金の使用額の変更に大きな影響を及ぼした。
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次年度使用額の使用計画 |
基本的には、本年度の成果を踏まえて実施計画を進めていくために、ゼオライトの酸性質を制御するための合成および処理、ゼオライトの酸性質の評価を含めた各種物性評価、ゼオライトと金属とを複合した触媒の合成ならびに合成した複合触媒の各種物性評価、複合触媒の触媒反応性能の評価に必要となる各種消耗品(試薬、ガス、器具類)の購入に使用を予定している。また、分析のための大型物品(装置)の購入を予定しているが、本年度の成果からさらに研究を進展させるために必要となる仕様・性能を有する装置を選定する必要がある。その他の学会での発表のための旅費や外部分析依頼等は、当初の使用計画および必要額に準じて使用する予定である。
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