研究課題/領域番号 |
15K06579
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松田 史生 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (50462734)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 代謝工学 / 出芽酵母 / メタボローム解析 / プロテオーム解析 |
研究実績の概要 |
(1)酵素量の解析:出芽酵母中の代謝律速部位の解明を目的として、定量プロテオミクス法を用いた中心代謝酵素タンパク質含量の定量を行った。そのための必要なLC-MSを用いた定量プロテオミクス法は既に開発したものを用いた。まず、中心代謝酵素遺伝子の1遺伝子破壊株30株について定量プロテオーム解析を行った。その結果、解糖系酵素群は協調して発現量が増減する傾向があった。また、無益回路であるトレハロース経路の酵素群の発現量が大きく変化していたことから、過剰なATPの消費が代謝の安定化に寄与していると推測された。次いで、エタノール生合成を遮断した酵母の中心代謝酵素発現プロファイルを調べたところ、解糖系およびトレハロース回路酵素群の発現量が顕著に増加していた。このことから、増殖速度が低下する一因として酵素タンパク生合成のために多くのリソースを割いていることが推測された。また、NADPH再生にかかわる酸化的ペントースリン酸経路の酵素群の発現量も向上していた。一方、イソブタノール生合成経路の酵素発現量は減少する傾向がみられた。以上の結果から、NADPH再生系の強化とイソブタノール生合成経路のさらなる活性化が必要であるとの知見が得られた。 (2)イソブタノール高生産株の作成:これまで得られた知見を元に酵母細胞内の代謝律速を解消するための遺伝子改変を行った。まず、NADH過剰とNADPH不足を解消する反応の強化株を作成したところ、イソブタノール生産量が元株に比べて6倍以上向上した。また、イソブタノール生合成経路遺伝子を多コピーで保持した株を構築したところ、元株に比べてイソブタノール生産量が6.2倍向上し、227.6±11.0 mg/Lとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度の研究課題のうち、(1) 酵素量の解析について、定量プロテオミクス法を用いた中心代謝酵素タンパク質含量の定量を行い、その結果をもとに、(2)イソブタノール高生産株の作成について、酵母細胞内の代謝律速を解消するための遺伝子改変を当初の計画通り完了させた。その結果、イソブタノール生産能を向上することに成功したことから、おおむね順調に進展しているとした。中心代謝酵素タンパク質含量の定量については、当初の計画に加え、中心代謝酵素遺伝子の1遺伝子破壊株30株について解析を行い、解糖系酵素群が協調して発現量が増減する傾向があること、トレハロース経路が代謝調節に重要な役割を果たしていることなど、今後精密代謝解析データを解読していくための基礎知見も得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)実験室進化株の解析: ADHおよびPDCをコードする遺伝子を多重破壊し、エタノール生合成を遮断した酵母株では、増殖速度が野生株に比べて1/5から1/10へと著しく低下する。これまでに、PDC多重破壊株を合成培地中で経代培養する実験室進化実験を行い、増殖速度が野生株の1/3程度まで回復した進化株を取得することに成功した。そこで、次世代シーケンサデータを解析し、ゲノム上の変異遺伝子同定して、制御メカニズムの遺伝的要因を解明する。また、元株と進化株の中心代謝中間体濃度を比較し、進化過程と代謝状態変化の関係を解析する。 (2)イソブタノール高生産株の作成:これまでの研究で得られた成果を集積したイソブタノール生産酵母株を作成する。とくに他の有用化合物生産酵母株の構築への展開を図る。律速段階を解消するために、変異株スクリーニングや酵母と異なるバクテリア、植物由来の酵素遺伝子の導入を行う。また、宿主として取得した実験室進化株を用いることも計画している。これらにイソブタノールや他の有用化合物生合成経路を導入し、エタノール、イソブタノール収率および増殖速度を評価する。生合成経路構築に必要なプラスミドベクターなどはこれまでの研究成果物を活用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度の予算に計上していた「分析用試薬LCカラム」分の消耗品使用が実験の効率化により節約できたため、余剰分を次年度計画にて有効活用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度に予定している (1)実験室進化株の解析における代謝解析に用いる「分析用試薬LCカラム」分の消耗品購入に使用する。また(2)イソブタノール高生産株の作成に必要な「分子生物学実験用試薬」に使用し、研究を加速する。
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