研究実績の概要 |
実験室進化株の解析:出芽酵母YPH499株由来のPDC欠損変異株を長期継代培養することで、増殖速度が向上した実験室進化株(PDCΔ)が得られている。次世代シーケンサーを用いて得たゲノム配列情報を比較したところ、PDCΔではグルコースセンサーに関わるシグナル伝達経路を担う遺伝子に変異が観察された。これらの結果から、実験室進化株では、グルコースセンサーの感度が低下し、カタボライト抑制が緩和されていると推測された。次にADH欠損変異株(ADHΔ)およびPDCΔを解析した。まず野生株のATP, ADPおよびAMP含量からEnergy chargeを計算したところ、それぞれ0.79, 0.94, 0.95となり、妥当な範囲 (0.8-0.95) にあることがわかった。ADHΔおよびPDCΔの共通点として細胞の増殖速度は低く、細胞内代謝物質ではピルビン酸は若干増加するものの、過剰蓄積は起きていなかった。一方で、補酵素類ではNADHの濃度が野生株に比べると増加していることが分かった。さらに、ペントースリン酸経路の各反応のギブス自由エネルギー変化はゼロに近く、ADHΔおよびPDCΔでも大きく変化しないことから、増殖低下時でも熱力学的な状態には変化がみられないことが明らかとなった。 イソブタノール高生産株の構築:得られた知見をもとに、イソブタノール生合成経路をすべミトコンドリアに構築した株を作成したところ収率が2.2%に増加した。さらに、ピルビン酸輸送タンパク、Mpclp、Mpc2, およびMpc3pを恒常的に発現した株を構築したところ、イソブタノール生産量を約50%向上することに成功した。
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