研究課題/領域番号 |
15K06583
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岡村 好子 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (80405513)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | メタゲノム / モジュール型酵素 / 特異的全ゲノム増幅 / 全ゲノムシークエンス |
研究実績の概要 |
抗菌、抗腫瘍、抗炎症、抗アミロイド作用、免疫抑制剤などを産生するリボソーム非依存型ペプチド合成酵素 (NRPS)やポリケチド合成酵素(PKS)は重要な創薬シーズであるが、1 つのタンパク質の中に複数のモジュールが並び、各モジュールはさらに複数のドメインからなるモジュール型酵素であり、巨大遺伝子クラスターにコードされていることから、通常のメタゲノム解析では遺伝子分離が不可能である。未知・難培養性微生物であるがゆえに入手することを諦めてきた新規モジュール型酵素を取得するために、本研究では未知・難培養性微生物のモジュール型酵素合成遺伝子の全長を取得し、その全配列をマイニングすることで、完全in vitro 合成法の道を拓くことを目的としている。27年度は、申請者のもつ遺伝子特異的全ゲノム増幅法を用いて、モデル細菌Pseudomonas fluorescens ATCC17400 株のNRPS遺伝子をプライミングサイトとして特異的に全ゲノム増幅を行い、生じた1本鎖を2本鎖化することを目的とし、その合成に成功した。また、増幅に使用するΦ29 DNA ポリメラーゼは鋭敏に1分子鋳型でも増幅することが可能なことから、反応調製時の実験空間をISOクラス1の清浄度で行うことが必要であること、また、通常のクリーンベンチでは実験者由来のヒトDNAがコンタミネーションすることを配列解析から明らかにした。これらの知見を踏まえて、ISOクラス1のスーパークリーンゾーン生成装置において、2本鎖化することによって、コンタミネーションフリーの信頼性の高いDNA合成を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者のもつ遺伝子特異的全ゲノム増幅法は、単菌分離を必要とせず、混合微生物系の中でも、標的細菌のゲノムのみを増幅することが可能である。 基本技術はΦ29 DNA ポリメラーゼを用いている点であるが、投入するプライマーは1本のため、1本鎖DNAが生じる。そこで、27年度は、2本鎖化のプロトコルの策定を行った。 酵素はΦ29 DNA ポリメラーゼを使用し、特異的プライマー(相補鎖)あるいはランダムプライマーの2種類を検討した。現在、ランダムプライマーで、純度の高い2本鎖DNAの合成に成功しており、PacBio次世代シークエンサーの長鎖リード解読に適したDNAであることが明らかになった。ただし、ランダムプライマー使用の場合、浮遊DNAのコンタミネーションによる非特異増幅が懸念される。我々は、通常のクリーンベンチでは作業者本人がコンタミネーションの原因を持ち込むこと、そのDNAはヒト由来の配列を有することを解明し論文に発表した(Bio Techniques, in press)。さらに、それを防止する策としてスーパークリーンゾーン生成装置を使用して非特異増幅なしで2本鎖を合成することに成功している。 一方、スーパークリーンゾーン生成装置を持たない研究者でも非特異増幅なしで2本鎖DNAを合成するためには、特異的プライマー(相補鎖)による合成法の確立が望まれる。そこで、引き続きこちらの系も合成方法の最適化を行っている。現在、電気泳動では確認できないものの、Qubitによる分析では2本鎖DNAの存在が確認できている。これは、400Gb 程度の相補鎖を合成すると予想され、合成距離が長いために目に見える形での2 本鎖にたどり着いていないと考えている。次世代シークエンサーで解析するためには更なる改良が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、引き続き特異的プライマー(相補鎖)による合成法の確立と次世代シークエンサー解析によって、増幅領域のカバレッジを評価する。また、予定通り、ゲノムを断片化し、自己環化したものの中から、NRPS, PKS遺伝子を持つ領域のみを特異的に増幅して、遺伝子を濃縮する方法を確立する。具体的には、NRPS 遺伝子保持菌のゲノムを抽出し、レアカッターの制限酵素での消化、もしくは物理的切断によって ゲノムを >100 kb になるよう穏やかに断片化し、自己環化させる(物理的切断の場合は末端修飾が必要)。この自己環化物を鋳型に特異的プライマーを投入すれば、当該遺伝子領域のみがプライミングされ、ゲノムのその他の部位は増幅されない。 この実験はNRPS 保持モデル細菌のPseudomonas fluorescens ATCC17400 株を用いて、2 本鎖化してDNA 配列を読むことで、遺伝子クラスター全領域が網羅されたかどうか判定できる。これにより、穏やかな断片化の条件を策定する。
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