組換え出芽酵母を高密度に懸濁することによってのみ生産が可能となる一群の難生産性蛋白質がある。菌体の高密度化に伴って引き起こされる酵母遺伝子発現の変動より、難生産性蛋白質の活性型発現を可能にしている遺伝子群を同定し、これを解析・応用することで、酵母を用いた組換え蛋白質の生産量増大、生産量の安定化を達成することを目的として研究を行った。 高密度系でのみ生産が可能なラッカーゼ(シイタケ由来Lcc4)をモデル組み換え酵素として用い、菌体高密度化にともない発現量が変動する遺伝子群をDNAマイクロアレイ解析により検出した。複数の候補遺伝子が得られ、これらの多くは出芽酵母の広域転写因子であるAdr1pの推定結合領域下流に存在していた。また、Adr1pとほぼ同一の配列を認識すると考えられる機能未知遺伝子Ygr067Cの発現量も増大していた。このため、Adr1、Ygr067Cの遺伝子破壊株を作製し、リアルタイムPCRやラッカーゼの分泌生産量、菌体の生育等を指標として種々の解析を行った。 同発現系で発現したラッカーゼを精製・解析したところ、高度に糖鎖修飾されていることが分かり、また、高密度系でのみ発現可能な他の組換え蛋白質についても、同様な糖鎖修飾が見られた。このため、組換え蛋白質の過剰発現にともなう糖鎖修飾が、宿主酵母の細胞壁合成および糖蛋白質の合成と競合するとの仮説をたて、組換えラッカーゼの予想糖鎖修飾部位に変異を導入し、糖鎖付加が起こらない変異体を作製し、強制発現時の宿主に与える影響を調べた。 これらの研究成果は学会(日本生物工学会平成27年度大会、29年度大会等)で発表し、また、本研究から派生して得られた研究成果についても、学会発表を行った(日本農芸化学会平成28年度大会等)。現在投稿論文を作成中である。
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