最終年度である平成29年度では、本研究で試作・改良したヒト十二指腸シミュレーターを用いた混合・消化特性について検討を行い、以下の成果を出すことができた。改良型のヒト十二指腸シミュレーターには、逆流防止機構を持つ人工胃消化物の導入部および安定排出機構を持つ十二指腸消化物の排出部が装備されている。本年度は、改良型のヒト十二指腸シミュレーターを用いて、液状食品モデル(基質となるペプチドを含む水飴水溶液)とタンパク質消化酵素(トリプシン)を含む人工膵液の混合・消化挙動について検討した。液状食品モデルが、ヒト十二指腸シミュレーターの腸管内を定常状態で流動している状態で、腸管中央部から人工膵液を瞬時に導入した後の消化挙動は、液状食品モデルの粘度に影響されることが強く示唆された。ヒト十二指腸シミュレーターから排出された液体を採取し、消化生成物の濃度に関する経時変化を測定した結果、液状食品モデルの粘度によらず、消化生成物の濃度は時間に対して極大を示すことがわかった。液状食品モデルの粘度の増大に伴い、消化生成物の極大値は大きくなったとともに、極大を示す時間の延長も認められた。以上の結果は、ヒト十二指腸シミュレーターの腸管内における、液状食品モデルと人工膵液の混合状態が、基質の消化挙動に大いに影響していることを示したものである。本研究で得られた成果より、胃消化物の主要な物性である粘度は、ヒト十二指腸内で分泌される膵液等の消化液との混合および含有栄養成分の消化反応特性に影響をおよぼす因子である可能性が示唆された。
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