最終年度は、神経伝達物質を特異的に検出するための蛍光分子プローブの性能評価および開発した試薬の医療診断の適応の可能性について検討した。蛍光分子プローブの蛍光発色団は、標的物質との疎水性相互作用による複合体形成および分子内のICT状態の変化によって強い蛍光発光を誘起する部位として4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-4H-ピランを有する化学物質および誘導体とした。さらに、神経伝達物質との結合部位として、ドーパミンに対してはイミノ二酢酸-鉄錯体、オキシトシンに対してはオキシトシンレセプターを模倣した24のアミノ酸残基を認識部位として採用した。これらの蛍光分子プローブが、それぞれ目的とする神経伝達物質を特異的に認識するかどうかを、蛍光光度法を用いて確認した。その結果、神経伝達物質添加前は、蛍光分子プローブからは微弱な蛍光が観察されたが、室温下、神経伝達物質を添加すると、目的の神経伝達物質と相互作用した時のみ、瞬時に蛍光強度の増加が確認され、検出感度を算出したところ、pMオーダーの神経伝達物質を検出出来ることが確認された。さらに、生きたラットの脳組織におけるin vivoイメージング測定を行った。具体的には、開発したプローブで脳組織を染色し、ドーパミンニューロンが集中する腹側被蓋野(VTA)を電気刺激することによる強制的な神経伝達物質の放出を行った状態で、蛍光顕微鏡を用いて観察したところ、ドーパミンの濃度変化を蛍光強度変化としてリアルタイムでモニタリングすることが出来た。さらに、ドーパミン濃度変化の大きい箇所と小さい箇所の分布も併せて観察することが出来た。
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