研究課題/領域番号 |
15K06620
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 茂広 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 准教授 (60294261)
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研究分担者 |
橋本 岳 静岡大学, 工学部, 准教授 (60228418)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 船舶 / 海上交通 / 画像計測 / 多眼ステレオ / 三次元位置 / パーティクルフィルタ / 追跡 |
研究実績の概要 |
本研究は,船舶を安全に航行させるために,特に画像処理・画像計測技術を利用した高度な情報処理技術を取り入れたインテリジェント海上交通システムを構築するための技術基盤を確立することを目指している。平成27年度は,その中で最も基本となる船舶の高精度位置計測に関して研究を行なった。位置計測はステレオ画像計測に基づくが,2台のカメラ間の距離に比して対象物までの距離が長くなるほど計測誤差が大きくなる。例えば,船舶にカメラを搭載する場合,船幅などからカメラ間距離が限られるのに対して,計測対象の他船や障害物は数キロメートル先にあることも珍しくなく,計測精度が問題となる。そこで,カメラを3台に増やして精度を改善することを検討した。実験およびシミュレーションを行なった結果,単にカメラを1台増やして3台にしただけでは高精度化の効果は薄く,配置を工夫する必要があることが分かった。すなわち,カメラを一直線状に並べた場合は両端の2台でほぼ精度が決まり,中央にカメラを増やしても精度はほとんど改善されなかった。これに対して,カメラを垂直方向に三角形状に配置した場合は,計測精度の改善が見られた。また,1回毎の計測単独では,計測精度の向上にも限界があるため,時系列的に連続した計測結果から確率的に最も確からしい位置を推定する手法としてパーティクルフィルタと呼ばれる手法を取り入れた。パーティクルフィルタを使って画像上の物体追跡をする場合,画像座標を基に状態方程式を立てることが多いが,本研究では船舶の三次元座標を基に状態方程式を立てることを提案し,安定した位置計測と追跡が可能となることを明らかにした。また,2隻の船舶を同時に追跡することも検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗状況についてはおおむね順調であると考えている。本研究の核となるのがステレオ画像計測で,いかに正確に対象物の三次元位置を計測できるかが重要である。本年度は,その点を進めることができた。 交付申請書に記載した平成27年の研究計画と照らし合わせてみても,(1)カメラのキャリブレーションと(2)3台以上のカメラを用いたステレオ計測手法の検討については研究実績の概要で述べたとおり実施済みである。(4)の船舶追跡手法にもパーティクルフィルタを用いて追跡ができることを確認済みであり,さらに,2隻の船舶の追跡についても検討した。研究計画の(3)として挙げていた海上画像からの船舶の検出手法については,もともと基礎手法はほぼできており,改良等を計画していた。そのため,単独の成果として学会発表等は行なっていないものの,上記の船舶追跡手法等とともに検討はつづけている。ただし,処理速度の問題は,まだ検討の余地があり,今後も検討を続ける予定である。 研究成果については,4件の学会発表を行なった。うち1件で,研究協力者の大学院生に発表を行なってもらったが,その発表が電気学会論文発表賞を受賞するなど,まずまずの評価が得られたと考えている。今後,研究データを精査して,著名なジャーナル等への投稿も検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には当初の計画通りに研究を進めていく。まず,船舶の検出・認識について,これまでの手法の改良,あるいは,新しい手法を取り入れることで,大まかな船種を認識できるようにする。このとき,三次元の位置情報や,そこから得られる対象物の寸法などの情報をフィードバックすることが有効であると考えている。次に, 海峡や港湾にカメラを設置する場合に,カメラの台数,間隔,向き,レンズ画角等を検討し,特定の場所に限らず共通して使えるカメラ配置最適化アルゴリズムを考案する。また,結果として得られる監視可能なエリアとそれにより軽減できる海難事故等を試算して必要コストの関係を明らかにしていきたい。そして,既存のレーダ,AIS,GPS測位装置等の連係,情報の融合方法を検討し,総合的な港湾,海峡内の船舶航行監視,交通管制システムへの応用を提案する。さらに,大型船等の自動着岸,あるいは,着岸誘導システムへと応用していく。船舶にはGPS(GNSS)測位装置やジャイロコンパスが搭載され自船の位置や姿勢を知ることができる。しかし,比較的近距離の物体に対する相対位置・姿勢に関しては,目視で確認するほかない。そこで,それまでの研究成果を応用し,例えば岸壁と船舶の相対的な位置・姿勢を高精度で計測することで自動着岸(あるいは着岸誘導)のための情報として活用することを検討する。最後に,以上の研究を総括し,インテリジェント海上交通システムの可能性を提言するところまで進めたいと考えている。 研究体制については,研究代表者と研究分担者の他,研究協力者として研究代表者の所属する神戸大学大学院海事科学研究科の大学院生(博士課程後期課程,博士課程前期課程)3名に加わってもらう。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は,海外での国際会議での発表が間に合わなかったので旅費の使用が少なかった。また,ジャーナル等への投稿も平成27年度中には行なわなかったので投稿料の支払いがなかった。研究データの整理等に対する謝金も発生しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は,平成27年度の研究成果でまだ未発表のものも含めて積極的に発表を行ないたいと考えており,そのための旅費や論文投稿料などが必要になってくる。また,取得する研究データの量も多くなってくるため,研究協力者にデータの取得や整理を依頼し謝金を支出することも予定している。物品では,カメラの多角配置を検討するために,カメラの追加購入と,また,処理の高速化のための高性能パソコン,または,ワークステーションの購入を検討している。
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