船舶の航行の安全性を高めて海難事故を減らすとともに船員の疲労を軽減することを目的として,視覚情報の利用を提案してきた。これまで,ステレオカメラを用いて船舶の位置を計測するときの精度を高めるために,カメラを2台ではなく3台に増やして冗長性を持たせる方法を検討した。また,1回の計測ではどうしても計測に誤差が発生するため,時系列データの使用も考えた。すなわち,パーティクルフィルタを船舶の3次元位置計測に適用して移動する船舶を追跡する方法を考案した。また,海上の画像からサポートベクタマシンや深層学習(ディープラーニング)といった機械学習により船舶を検出・認識する手法も試した。そして最終年度では,レーダーとの連携の例としてレーダーに写った影をカメラで捉えるような用途を想定し,パンチルトカメラを用いて船舶を自動追跡するシステムを試作し,実験で有効性を確認した。また,海峡や港湾などの比較的広い海域を陸上に設置したカメラで監視するために,カメラを配置する位置や向きを自動で求めるプログラムを作成した。これは,カメラの画角を決めると,1隻の対象船舶を少なくとも1台のカメラで観測する場合と,2台以上でスレテオ計測する場合のそれぞれについて,必要最小限の数のカメラ配置を求めるもので,明石海峡を例にカメラ配置を求めてみた。さらに,船舶の自動離着桟を念頭に,陸上設置カメラで比較的近距離の船舶の各部の3次元位置を求める実験も行った。これにより船舶と岸壁の距離なども計測可能であることが分かった。以上により,海上交通の安全を保つために視覚情報の様々な利用方法を提案し,利用方法に応じた基盤技術を開発した。今後は,実用化に向けた手法の改良や実装を行い包括的な海上交通の管制システムにしていくことが課題となる。
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