研究課題/領域番号 |
15K06625
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
千葉 元 富山高等専門学校, 商船学科, 教授 (20369961)
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研究分担者 |
古山 彰一 富山高等専門学校, 電子情報工学科, 教授 (90321421)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | CTD / ADCP / 電磁式流向流速計 / 潮流 / 水塊構造 |
研究実績の概要 |
富山高等専門学校臨海実習場が、2015年3月に、富山湾沿岸部の富山新港入口付近から、南部の東水路奥部に移転した。この臨海実習場の前面海域は、富山湾からの流入海水と、近隣にある新堀川や貯木場からの低塩分水が混在している。ここで、夏場において、この外海水と低塩分水の共存影響と思われる、特異な流れが発生することが、しばしば見受けられた。具体的な状況としては、西向きの流れが発生して、カッター等の微速で航走する小型舟艇が、設定針路よりも西へ偏向する影響を受けていた。また、富山高専の練習船「若潮丸」(231t)が離岸の際、最後の係留索の張具合が強くなるといった影響が出ていた。これらの流速は、こうした状況より0.1~0.3m/s程度と思えるが、小型舟艇の航行や大型船舶の離着岸等の微速航行の際の影響は無視できないものである。そこで、この海域の水塊構造や流れの海洋環境調査を行い、この海域に発生する特異な流れのメカニズムの解明を試み、臨海実習場船艇の安全航行に役立てることを目的としている。 この富山新港の外海である富山湾は、対馬暖流が沿岸部まで流れ込み、その上部に多くの河川水からの流入水が広がり、これらが場所的、季節的に変動していく状況が、これまでの調査で確認されている。そして、外海水と河川水が交わる河口域では、双方の密度差から、エスチュアリー循環を生じ、特異な流れを発生することが知られている。 電磁式流向流速系、CTD、ADCPによる観測より、この春から夏場に顕著となる西向きの流れは、上層が低密度で成層する時期に発生しやすい現象である。そして、下層で干潮から満潮に伴う東向きの流れがあり、これが地形性効果で港の東端部で上に上がり循環し、上層部の西向きの流れの勢力を増加させる。これにより、カッター航行や、大型船の離着桟橋に影響を受けるような、約0.1~0.3m/sの流れが発生すると解明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの観測より、当該海域においては、表層は河川水、その下層は外海と同密度でつながる海水影響が大きく、その間に混合層がある。この各層において、風、潮流、水塊の密度差等が要因となり、各層で異なる流れが発生していることが確認できた。 2015年の秋から、電磁式流向流速計とCTDを用いた観測を実施し、2016年の夏からはADCPも用いての観測を実施してきた。ここで、冬季から夏季に渡る水塊構造と、これに伴う流れの変化特性を考察できた。 冬季の場合、水塊の境界は約1~2m深と5~6m深であり、表層部は貯木場・新堀川からの低塩分水の流入により西向きの流れが発生するが、冬季の風や富山湾では定常的に発生しているうねりの侵入の影響で、この西向きの流れがハッキリしない場合が多い。中層部の流れは不安定であり、下層部は、約0.05~0.1m/s以下の弱い流速であるが、潮汐影響により干潮から満潮では東向きの流れが発生している。 春・夏季では、水塊構造の境界は約1~2mと4~5mの3層構造になっている。まず、表層部は、気温上昇と河川水量の増加のために、高温・低塩分の密度が低い状態で成層している。この成層は、夏季には非常に強くなる。そして、こうして成層した水塊が、桟橋から東側の浅水域に溜まっており、これが西方に流れ出ていると考えられる。この下層では、干潮から満潮の場合は東向き流れが発生している。約4~5m以深では、流れは不安定となっている。ここで、干潮から満潮の場合、この潮流の流れが、水深が急に浅くなる浮桟橋近辺において、上方に行き、上層部の密度の低い水塊を押し出し、表層の西向きの勢力が強くなると考えられる。今後は、より時間的に連続した観測を実施し、これまでに確認された現象のメカニズムとその季節変動特性を、より明確にしていく。
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今後の研究の推進方策 |
この春から夏場に顕著となる西向きの流れは、上層が低密度で成層する時期に発生しやすい現象である。そして、下層で干潮から満潮に伴う東向きの流れがあり、これが地形性効果で港の東端部で上に上がり循環し、上層部の西向きの流れの勢力を増加させる。これにより、カッター航行や、大型船の離着桟橋に影響を受けるような、約0.1~0.3m/sの流れが発生すると解明できた。ここで、日本海特有の10~20cm程度の小さい潮高差による弱い潮汐流でも、こうした流れに強い影響力を与えていることもわかった。 今後は、続けて観測及びデータ分析を実施し、流れの発生条件をより明確にしていき、この予測技術の確立にも展開していきたい。特に、満潮から干潮時における、表層から下層における、流れの構造と発生メカニズムを明確に解明していきたい。また、こうした流れの水平的な分布についても把握したい。 今回の観測と考察で得た知見より、浮桟橋付近で上層と下層の水温と塩分状況の連続モニタリングを実施すれば、こうした流れの現象を予測することが可能である。この観測を複数点のネットワークで行えれば、より有効であると思える。既に、こうしたシステムの構築にも取り組んでいる。 また、宮城県山元町磯浜漁港周辺海域は、これまでの観測において、阿武隈川や坂元川の河川水が海洋環境に大きな影響を及ぼしていることが判明している。こうした河川水影響による澱み領域が、ホッキ貝の良好な産卵場所であることが推測され、このための調査も実施していく予定である。ここでは、ホッキ貝の生息実態を解明し、ホッキ貝漁の増産に資するものとする。このため、当該海域の水温・塩分・濁度等の鉛直分布の観測を小型CTDで、流れの流向流速の鉛直分布の観測を当小型ADCPで行う。加えて、この春から冬の観測から、季節変動特性の考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後の観測実施に必要な消耗品購入、研究成果の発表及び論文投稿を実施するため。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の観測実施に必要な消耗品を購入し、研究成果の発表や論文投稿を実施していく。
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