研究課題/領域番号 |
15K06641
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐藤 晃 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (40305008)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地熱貯留層 / 2相流 / X線CT / 可視化 / 要素モデル |
研究実績の概要 |
本年度は,研究のキーとなる水-蒸気2相流問題を有限体積法を用いて計算する基本的手法を確立した。本研究の特徴的な点は,地熱貯留層全体をシミュレートするのではなく,地熱貯留層を構成する基本要素である地熱貯留層要素モデルなる新たな要素モデルを提案した。貯留層の計算はこの地熱貯留層要素モデルを用いて種々の基本パターンを計算し,それを組み合わせることによって貯留層全体をシミュレートする新たな手法を確立した。この方法は,大規模な計算は必要なく,既に知られている境界条件・初期条件の下に要素ごとに計算することによって計算時間を削減することができる。一方で,これまで大規模な貯留層解析では水-蒸気の詳細な流動状態を計算するには膨大な計算作業が必要だったが,本研究は要素解析の組み合わせが可能であり,個々の要素では詳細は2相流解析を実施するものの,要素1つの計算はそれほど大きくなく,効率的に地熱貯留層の解析を可能とした。 さらに,本研究ではX線CTを用いた様々な2相流の可視化を実施ししている。特に,密度差の分布があまり大きくない場合については造影剤を活用するなど新たな試みを実施した。ここで問題になるのが,CT値と密度といった物理量との関係である。X線CTは基本歴には密度に比例する量であるが,造影剤の使用はその関係から外れてしまう。よって,造影剤を用いた場合のキャリブレーション法を開発し,2相流の定量的な評価法の基盤を築いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度4月には研究代表者および大学がある熊本で大地震が発生し,年度初期の段階では研究の継続が危ぶまれたが,幸いにも解析装置,実験装置に大きな被害は出ず,短期間の修理・修復によって研究が再開できた。 実施概要でも示したように,本研究の1つの柱である地熱貯留層内での水-蒸気2相流解析については,地熱貯留層要素モデルによる多孔質内での基本的な計算方法を確立した。つまり,水1相状態からエネルギーを受けて一部蒸気に変換され,その混在した2相流状態の経時変化を,種々の条件で計算する手法を確立した。その地熱貯留層要素モデルの組み合わせにより,地熱貯留層全体の大規模な計算を実施することなく,比較的容易に地熱貯留層をシミュレートできる基礎を築いた点は画期的であると考える。 X線CTによる2相流の可視化分析に関しても,本年度は新たな中間シリンジを設計・製作し,密度差の小さい2相流に対しても効率的に可視化・分析が可能となる造影剤の使用方法について検討した。この点についても,原画像での可視化のみならず,画像データの具体的な定量化について成功できた点は非常に重要である。 以上の点から,2016年度については概ね計画通りに研究が実施できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに構築した知見を基に,引き続き有限体積法による数値シミュレーションおよびX線CTスキャナーによる2相流可視化試験を実施する予定である。 前述のように,有限体積法を用いた数値シミュレーションにおいては,地熱貯留層要素モデルという新たな概念を導入し,その組み合わせにより貯留層全体の解析を実施する基礎を築いた。ただし,現段階では地下からの熱の供給が1次元的なモデルにとどまっている。よって,これを拡張し,2次元・3次元のモデルでの解析を実施できるように展開したい。また,地熱貯留層を決定するパラメータについても,本年度は限られた条件でのみ実施した。特に,より深度の深い地熱貯留層を対象とした高圧下での2相流解析についてシミュレーションを拡張する予定である。 X線CTスキャナーによる2相流の可視化に関しては,既に基本的な実験環境が整いつつある。本年度は,実験では1種類の岩種を対象として可視化を行ったが,今後,空隙特性や透水特性の異なる種々の岩石試料についても可視化試験を実施していく予定である。この可視化試験は,上述の数値シミュレーションの地熱貯留層要素モデル1つに対応すると位置づけられる。従って,CT画像データによって評価される諸特性をフィードバックし,より現実的なシミュレーションを実施できるようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度については,年度当初に発生した熊本地震により研究実施時期が大きくずれ込んだ。加えて,予定していた機器等の導入が遅れた経緯がある。研究内容については,主に数値シミュレーションを中心に実施し,実験についてもこれまでの手法を主に踏襲し工夫しながら実施した。
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次年度使用額の使用計画 |
数値解析に必要な解析装置の拡充とともに,2相流可視化試験に必要な高圧流動システムの周辺装置を拡充していく予定である。
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