今年度はフルポラリメトリックボアホールレーダ(FPBR)の実験を土壌中において昨年度に引き続き実施した。また、レーダで物体の性質を明らかにするための信号処理法の開発を行った。 衛星による計測などで用いられている4成分散乱モデルはボアホールレーダでは適用しにくく、独自の方法を開発することが必要となった。このため、本研究では、物体からの反射波の偏波方向とその度合いを線分と色で3次元空間に表現する方法を提案した。線分の方向は偏波の傾きを表し、色は偏波の膨らみ角を表す。その結果、計測対象の物体が線状のものであるかどうかと、線状のものであればその延伸方向はどの方向かがわかるようになった。 FPBRでは、さまざまな偏波方向をもつ波がアンテナで送受信されるが、これが電磁波の推定される送信方向と到来方向に対しどのように影響がでるかを実験的に検証した。実験項目はシングルホール計測によって存在方向が既知の物体の方向を推定することと、クロスホール計測によって送信側から水平偏波または垂直偏波を送信し、受信アンテナで電磁波の方向推定を行った。両実験によると、垂直偏波を送受信する場合には坑井が波の送受信方向に与える影響は少ないことがわかった。一方、水平偏波の場合は無視できないほど波の送受信方向へ与える影響が大きいことがわかった。これはFPBRを実用化していく上で課題になると思われ、今後、研究を進める必要があることがわかった。 上記では、坑井の軸と波の送受信方向のなす角(仰角)が直交しているか直交に近い場合を仮定していた。本研究では仰角が0度か180度に近い場合でも実験を行った。送受信する波は垂直偏波のみに限定した。その結果、ある仰角で坑井内のダイポールアレーアンテナへ波が到来すると、ダイポールアレー素子間で波の到達時間差が無くなる現象が起こることを発見した。
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