核融合大型マグネット用の導体では、性能の評価指標として、超電導状態が一部壊れて電流が常電導金属に分流し始める温度Tcsがあり、運転温度との差が温度マージンとなる。これが大きい方が、より安全と判断されている。最近スイスで行われた導体試験において、磁場中で繰り返し通電を行ったところ、Tcsが連続的に減少、特性の劣化が確認された。これは、多数本の素線が複雑に絡み合った導体内部で、曲げ歪に敏感な素線が通電中に動いて曲げ変形を受ける事によって、個々の素線の超電導特性が劣化する事で導体全体の特性劣化を引き起こしている事が、導体を破壊して内部の状況を調べた結果判明した。この対策として、素線同士の撚りピッチを短くして撚り線の剛性を上げる事でTcsの減少を食い止めたが、素線同士の接触面圧が上がったため、素線間接触抵抗が増大し、交流損失の増大という問題が新たに発生した。そこで本研究では、導体内部の素線の配置を詳細に調べることができる装置を液体ヘリウム温度下において計測できるように改良し、マグネットの運転温度において素線の配置および素線間接触抵抗の局所値の分布を得ることによって、構造力学モデルと電気回路モデルを適用して導体の交流損失増大を定量的に解明する事にした。各計算モデルの適用には、ヘリウム温度下での素線配置および素線間接触抵抗値の測定が必須であるため、これまで用いてきた測定装置を断熱真空容器に収め、冷凍機冷却にて測定サンプルを冷却できるように装置開発を行った。導体は10mm厚のスライス状態に加工して測定し、導体全長に渡って測定を繰り返す必要がある。各部冷却条件の最適化を行った結果、世界で初めて1000本を超える大型導体の内部構造の一部が明らかになった。これは、連続運転による長尺導体内部構造解析が可能になった事を示しており、今後の大型導体開発の指針となる設計手法提案に大きく貢献できる。
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