研究課題
昨年度に開発した,プラズマ回転およびイオン反磁性ドリフト効果を考慮したMHD安定性解析コードMINERVA-DIを用いて,JT-60U実験装置におけるELM安定性の定量解析を行った.同装置では,これまで実験的に観測されていたELMの発生条件と数値解析によって評価された条件の間に大きな差があることが示され,その差を埋めるにはプラズマ回転が重要な役割を果たすことが研究代表者らによって明らかにされていた.しかし,当時の解析ではイオン反磁性ドリフト効果が考慮されておらず,より高度な物理モデルに基づいた結果の再検証が求められていた.今年度,この再検証を行い,プラズマ回転がELM安定性に対するイオン反磁性ドリフト効果を大きく低減し,さらにELMを不安定化することを明らかにした.この成果はNuclear Fusion誌に掲載された.また,同じくMINERVA-DIコードを用いて,欧州JET装置におけるELM安定性の定量解析を行った.同装置では,ITER like wallと呼ばれる金属ダイバータを導入後に,ELM発生条件が,プラズマ回転の影響を無視した従来の数値解析では説明できなくなったことが知られていた.今回の解析により,プラズマ回転を考慮した数値解析を行うことで,同装置におけるELM発生条件が説明できることを明らかにした.この成果により,同装置にのみならず金属ダイバータを設置する予定であるITERや原型炉におけるELM発生条件の予測は,MINERVA-DIのようなプラズマ回転を考慮した数値解析コードで実現できることを示した.
2: おおむね順調に進展している
本年度は,研究代表者が開発した物理モデル・数値コードの妥当性および結果の定量性をより高めるために,欧州JET装置におけるELM発生条件について本研究課題で開発したモデル・コードを用いて数値的に評価し,実験観測結果と比較することを進めた.その結果, プラズマ回転がITERや原型炉におけるELM発生条件の予測を実現する重要な物理機構であることを明らかにした.これにより,本研究課題の目的である”原型炉におけるELM抑制・小振幅化に重要となる物理パラメータの発見”を実現する上で必要となる物理モデル・数値コードの準備が完了した.特に,プラズマ回転の影響は,QHモードと呼ばれるELM抑制運転モードの実現に重要な役割を果たしていることが実験的に知られており,開発したMINERVA-DIを用いて同運転モードの安定性を定量解析することで,ELM抑制につながる物理機構の詳細な解明が進むと期待できる.
29年度は,開発したモデル・コードをELM抑制・小振幅化条件評価への応用を始める.具体的には,ELM抑制運転モードとしてQH-modeに着目し,同運転モードで観測されているEdge Harmonic Oscillation (EHO)の発生条件の理解を試みる.このQH-modeの研究は米国DIII-D装置で精力的に進められており,これまでの報告ではプラズマ表面近傍に大きな回転シアがあることがEHO発生に不可欠であるとされている.本研究課題で開発したモデル・コードを用いた定量解析により,このような実験事実が観測された原因の解明を試みる.そのために,QH-modeの研究が最も進んでいる実験装置であるDIII-D装置を有する米国General Atomics社(GA)を訪問し,同社の理論研究者および実験研究者の協力を仰いで,DIII-D装置におけるEHO発生条件について数値解析結果と実験観測結果の比較を開始する予定である.また,EHOの実験的な発生条件を理解することで,同条件下で起きうる現象について理論研究の視点から検証し,開発したモデルを用いた解析では実験結果を再現できなかった場合に,どのような物理を新たに考慮する必要があるかについて検討し,必要に応じてモデルの拡張などを行う.
イギリスの研究機関との共同研究で得られた成果が高く評価され,29年度の欧州物理学会にて招待講演を行うこととなり,この旅費を捻出するために今年度の出費を抑えた.
29年6月に開催される欧州物理学会への参加費,および出張旅費に利用する.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Nuclear Fusion
巻: 57 ページ: 022011 (10pp)
10.1088/0029-5515/57/2/022011
Proc. 26th IAEA Fusion Energy Conf., 2016, Kyoto, CD-ROM (IAEA, Vienna) file TH/8-1 (2016)
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Proc. 26th IAEA Fusion Energy Conf., 2016, Kyoto, CD-ROM (IAEA, Vienna) file EX/3-4 (2016)
Proc. 26th IAEA Fusion Energy Conf., 2016, Kyoto, CD-ROM (IAEA, Vienna) file TH/8-2 (2016)