原子構造計算プログラムFACによって、電離及び再結合断面積の計算をそれぞれ62価及び63価タングステンイオンに対して行う。また、その計算精度を実験で測定されたスペクトル線の強度比から評価し、これによって世界で初めて精度(誤差)が評価された電離及び再結合断面積を整備することが目的である。 平成28年度以前は、二電子性再結合断面積の計算精度の向上のため、考え得る全ての遷移を光放射脱励起と自動電離過程について考慮する方針で計算を進めていた。しかし、計算時間が莫大となり、重複して計算される遷移の数が増え、これを取り除くプログラムを開発する必要があった。 平成29年度より継続して平成30年度も、遷移確率の大きい種類の遷移を調べ、その種類の遷移を主に考慮することにより、計算精度を確保しつつ計算時間を抑える手法の開発を進めた。これにより、二電子性再結合断面積の計算を完了した。併せて、放射再結合、直接電離、及び励起・自動電離断面積を計算した。これらを用いて、電離平衡モデルによりW62+に対するW63+の密度比を計算し、これを実験と比較した。その結果、ここでの計算値は、電子エネルギー9 keVでは実験値とよく一致したが、12 keVでは実験値よりも大きかった。不一致の原因として、計算では考慮しなかった電荷移行再結合の効果が実験では顕著であった可能性がある。また、二電子性再結合断面積の計算ではさらに考慮する準位を増やすことを検討している。 本研究で計算された電離・再結合断面積は、高い電子エネルギー領域では実験との不一致が見られるものの、実験によって精度が確かめられた断面積データであり、これまでにほとんど例がない貴重なデータである。従って、このデータを使って、次世代核融合超高温プラズマ中のタングステンイオンの密度を導出する場合には、これまで不可能であった誤差を評価することが可能になる。
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