研究課題/領域番号 |
15K06663
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕樹 広島工業大学, 工学部, 教授 (20211948)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 原子力材料 / 照射損傷 / 損傷組織発達 / その場観察 / 格子欠陥 |
研究実績の概要 |
高純度銅に4種類の溶質原子を添加して二元合金試料を作製した。北海道大学の超高圧電子顕微鏡を用いて室温で1250kV電子照射を行い、生成した格子間原子集合体の一次元(1D)運動をその場観察した。その1D運動距離分布から、単一のスズ原子は格子間原子集合体をトラップしその1D運動を阻害するのに対して、ゲルマニウムは単独ではトラップしないことが明らかとなった。両者の差は、溶質の原子サイズを反映したものと考えられる。 京都大学の加速器を用いて、銅の薄膜試料に室温で鉄イオンを照射した。導入される欠陥集合体を電子顕微鏡で観察し、個々のカスケード領域が互いにオーバーラップしない照射条件を決定した。次回はこの条件で銅合金に銅イオン照射を行い、生成する点欠陥集合体の空間分布からカスケード損傷における1D運動機構について検討する予定である。 また超高圧電子顕微鏡を用いた電子照射により銅合金に導入される欠陥集合体の形成・成長挙動から、原子サイズの小さな溶質原子と点欠陥の相互作用について検討し、論文として報告した。 名古屋大学の超高圧電子顕微鏡を用いて、原子力用構造鋼に室温から400℃の範囲で電子照射を行い、生成した格子間原子集合体の1D運動挙動を調査した。これまでに高温では偏析した侵入型元素が集合体をトラップし1D運動を抑制することを明らかにした。さらに今回、オーステナイト鋼SUS316L に0.1 wt.%の炭素を添加してもなお、フェライト・マルテンサイト鋼F82Hの方が、高温での抑制効果が大きいことが判明した。その理由として、オーステナイト鋼における格子間原子集合体と侵入型炭素原子の相互作用がフェライト鋼のそれより小さいことが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題は、1)1D運動距離が大きく異なると見込まれる銅合金試料を作製する、2)超高圧電子顕微鏡を用いた電子照射実験により1D運動距離が異なることを確認する、3)この試料を用いてイオン照射を行う、の3つの段階からなっている。 当初、銅にゲルマニウムを添加した試料を作製したが、電子照射実験によると1D運動への影響が想定より小さく、イオン照射実験の試料として適切ではないことが判明した。そこで原子サイズの異なる数種類の溶質元素を添加した合金を作成し直して電子照射実験を実施し、スズの添加量を変えることで1D運動距離が大きく変わることを見出した。主にこの試料を用いてイオン照射実験を行うこととした。 本年度はイオン照射実験を複数回実施し、上記の遅れを取り戻す計画であった。しかし、本申請者の異動とイオン照射装置の故障等のために、照射実験は一回のみ実施し、適切な照射条件を決定するところまで終了した。今後、銅合金のイオン照射実験を実施するために、研究実施期間を一年延長した。
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今後の研究の推進方策 |
スズの添加量を変えることによって1D運動距離を制御した試料を用いてイオン照射実験を行う。形成される空孔集合体と格子間原子集合体の空間分布を調査し、カスケード損傷下における1D運動効果を実験的に検証する。また試料作製の試行錯誤の際に、電子照射に誘起される1D運動に対する溶質原子の影響はその元素によって異なることが明らかになった。この結果をまとめて論文として報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
超高圧電子顕微鏡やイオン加速器を使用した出張実験を実施したが、いくつかの実験では装置所有機関から装置使用料の支援を受けた。これが次年度使用額の生じた主たる理由である。 次年度も出張して実験を行う予定で、旅費と装置使用料が必要になる。また私の異動先で実験を継続するために、移設した装置類が使用できるように整備中である。このために細かな物品や消耗品が必要になる。
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