高純度銅に原子サイズの異なる4種類の溶質原子を添加した二元合金試料に対して、北海道大学の超高圧電子顕微鏡を用いて室温で1250kV電子照射を行い、生成した格子間原子集合体の一次元(1D)運動をその場観察した。原子サイズの大きなスズとゲルマニウムには、格子間原子集合体をトラップしその1D運動の距離を短くする効果がみられた。一方原子サイズの小さなシリコンとニッケルの添加では1D運動距離分布に顕著な効果がみられず、1D運動への影響が小さいことが判明した。 高純度銅について、インゴットを圧延しディスク試料に打ち抜いた後でひずみ取り焼鈍(熱処理)した『標準試料』と、切断・機械研磨と電解研磨のみで作製した『熱処理なし試料』に電子照射を行い、生成した格子間原子集合体の挙動を比較した。『標準試料』に比べて『熱処理なし試料』では格子間原子集合体の1D運動距離が約3倍長いこと、格子間原子集合体の数密度が低くサイズが大きいことが判明した。試料作製の際に導入される不純物が、格子間原子集合体の形成・成長、および1D運動に影響していることが示唆された。 京都大学の加速器を用いて、銅および銅合金の薄膜試料に室温で銅イオンを照射した。昨年度の予備実験の結果を参照し、照射条件には導入される欠陥集合体が空間的にオーバーラップしない低照射量を選択した。今回は電子照射実験において1D運動距離が大きく異なる3種類の試料、すなわち高純度銅の『標準試料』と『熱処理なし試料』(1D運動距離が長い)、『銅―スズ合金』(1D運動距離が短い)に着目した。イオン照射したこれら3種の試料を透過電子顕微鏡で観察し、カスケード衝突から直接形成されたと考えられる欠陥集合体のグループ(積層欠陥四面体と格子間原子型転位ループからなる)を各10箇所程度撮影した。
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