申請者らが特許出願済の「マイクロ波誘電吸収による生体分子等の構造評価技術」を線量評価に応用する為の研究を実施した。これは、現状で実用化されている線量計測技術の殆どが無機物での欠陥生成等の物理現象の計測に基づいているのに対して、人体被ばくで起こる生体分子の変化の一部を模擬しつつ計測できる点で画期的方法である。 平成29年度は、プラスミドDNA及び酵素反応により1本鎖又は2本鎖切断させた試料の誘電吸収特性を、Lバンドマイクロ波誘電吸収法により評価し、濃度依存性を明らかにした。濃度依存性のスロープの差から、照射で得られたDNA(未損傷と鎖切断生成物の混合物)について切断収量評価が可能になり、測定値のアウトプットから線量評価に応用できるだけではなく、例えばそれぞれの照射生成物毎のG値を求める事も可能にした。 また、測定中には避ける事が出来ない装置本体及び周辺の温湿度変化により生じる測定値のドリフトについては、同時計測した環境データをフィードバックし、リアルタイムで迅速に測定値を補正するプログラムを開発し、実装した。その結果、測定精度が大幅に向上した。これは、線量計として応用する際の線量精度向上に直結する結果である。 以上の様に、本研究課題の研究期間での成果では測定精度の向上と共に、切断生成物毎の収量評価も可能であることを明らかに出来たが、現在主流である無機物質で起こる物理現象に基づく測定と比較すると感度の点で劣っている。今後は、測定装置・システムの改良だけではなく、反応系である試料に工夫が必要であると考えている。例えば放射線化学反応の増感剤を利用する等である。 それと共に、放射線取扱施設での日常の個人被ばく線量計としてではなく、例えば放射線がん治療等の比較的大線量となる対象や、(さらに大線量照射が通例である)放射線プロセシングでの線量計測への適用など、応用先の探索も課題となるであろう。
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