研究課題/領域番号 |
15K06667
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清水 喜久雄 大阪大学, ラジオアイソトープ総合センター, 准教授 (20162696)
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研究分担者 |
松尾 陽一郎 福井大学, 附属国際原子力工学研究所, 特命助教 (90568883)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 吸収線量 / DNA損傷 / qPCR / 緊急被ばく / 2本鎖切断 / 酸化損傷 |
研究実績の概要 |
私はqPCR(Quantitative Polymerase Chain Reaction)を用いたDNA鎖切断量を指標とした吸収線量の新規評価法を開発している。リアルタイムPCRとは、極めて微量なDNA溶液から特定のDNA断片だけを選択的に増幅させ、初期の鋳型DNA量を評価する手法である。本手法の原理としては、ポリメラーゼ連鎖反応による増幅率がサンプルの鋳型DNAの量に比例することに着目し、増幅可能な未損傷の鋳型DNAの量を測定することにより、DNAの損傷量を評価するものである。これまでに、ガンマ線を照射した場合の検討を行っており、線量の増加によって、鋳型となるDNA損傷が増加し、DNA合成が阻害されて行くという結果が得られている。 モデルとなるDNAに対し、低LET放射線としてガンマ線を、高LET放射線として290MeVの炭素粒子線を照射した。また、本手法で評価対象となるDNA損傷のタイプを明確化するために、照射したDNA中に生成する8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(以下8-OHdG)量を評価した。8-OHdGは、DNAを構成する塩基の一つdeoxyguanosine(dG)の8位がヒドロキシル化された構造を持ち、広く検出される特徴的なDNA酸化損傷である。さらに、本手法の感度向上の可能性を検討するために、8-oxo-グアニンなどのプリン塩基損傷を特異的に認識し、APサイト (脱プリン/ピリミジン部位 apurinic/apyrimidinic site) を介して鎖切断に変換するFpg (formamidopyrimidine[fapy]-DNA glycosylase)を、照射したサンプルDNAに作用させ、リアルタイムPCRを行った。得られた結果を、生化学の観点から検討したところFpg処理により感度が上昇することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度の予算で予定通り自動DNA精製装置(QIAcube)を購入し、照射DNA試料の自動精製システムを構築できた。そのことにより、照射DNA試料の処理速度が格段に向上した。 また感度の向上の可能性について検討するために、APリアーゼやDNAグリコシダーゼなどの機能を有する酵素をサンプルDNAに作用させ、塩基損傷を鎖切断に変換下の地した後にリアルタイムPCRを行った。本年はます、酸化損傷を認識し、DNA鎖切断に変換する酵素であるFpgに注目した。具体的にはFpgによって認識・除去される損傷を受けた塩基として、7, 8-ジヒドロ-8-オキソグアニン (8-オキソグアニン)、 8-オキソアデニン、fapy-グアニン、メチル-fapy-グアニン、fapy-アデニン、アフラトキシンB1-fapy-グアニン、5-ヒドロキシ-シトシンおよび5-ヒドロキシ-ウラシルがあげられる。Fpg処理によりPCRによるDNA合成の阻害が拡大するという結果が得られた。これはFpg処理により酸化損傷がDNA鎖切断に変換され、検出できるようになったためと考えられる。従って酵素反応をqPCRの前処理として行うことで、感度の上昇が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として、誤差の低減と、さらなる感度の向上について検討する必要がある。誤差の低減のために、サンプル数を増やすことが考えられ、今後解析システム全体の自動化などに取り組んでいく計画である。また、サンプルDNA配列中に高感受性であるブロモウラシル等を組み込むことで、感度が上昇する可能性がある。さらに、反応条件の最適化の一つとして、DNA合成が阻害されやすいポリメラーゼを調査し選択することなどを検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りに使用した。残金は1万円以下であるので必要な物品を購入するには少ないので次年度に回した。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した残金は28年度に試薬等の購入に充てる予定である。
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