研究課題/領域番号 |
15K06668
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
近藤 孝文 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (50336765)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射線化学 / 高分子 / 薄膜 / パルスラジオリシス / 電子輸送 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、薄膜のパルスラジオリシスの開発を主要課題として推進した。これは要素技術開発から成り、一部成功し、一部は進んでいない。はじめに、数種の高分子で光透過性の高い試料を得ることができたが、多層化して測定する方法は、多重反射・拡散し測定ができなかった。2つ目に照射効果抑制のために照射位置可変機構を計画したが、試料形態が確定しなかったので次年度に導入する。3つ目は過渡吸収測定の高精度化であり、ノイズを抑制し測定可能な最小吸光度を0.001まで改善した。水500μmの試料を測定したところ、フォトカソード電子加速器でビームを集束すれば、水和電子のピーク波長である720nmなら71μm厚まで測定できる事が分かった。また、別の加速器の大電荷量ビームを照射した結果、7μmまで測定できる事が分かった。しかし、高分子のモル吸光係数は水和電子よりも小さいのでより困難である。電子発生用レーザーに水漏れが生じ、またレーザーの集束による銅カソード表面の損傷が悪化して電荷量が上がらない状況もある。 一方、放射線化学初期過程の研究では、興味深い新しい発見が得られた。直鎖ヘキサン、直鎖オクタン、直鎖ドデカン等鎖長の異なる棒状の直鎖アルカンと、イソオクタンのような分岐鎖を持つ球状のアルカンで、ビフェニルをプローブ分子としてフェムト秒パルスラジオリシス測定を行って電子輸送・移動過程の研究を行った。以前から、ドデカン中で拡散律速反応よりも1桁以上大きなビフェニルラジカルアニオン生成を観測していたが、この現象が他のアルカン中でも観測された。この事は、飽和炭化水素中の放射線化学初期過程における複数の電子輸送機構を示唆している。炭化水素系高分子薄膜中の電子輸送・移動現象は、本研究の中心課題そのものであり、高分子中固体試料中にプローブ分子を練り込んで同様の測定をすることにより新たな知見を得ることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体薄膜のパルスラジオリシスシステム開発では、一部成功し一部進んでおらず、難航しているが、炭化水素の放射線化学初期過程の研究においては、中心課題である電子挙動に関して、新しく興味深い成果も出ているから。
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今後の研究の推進方策 |
成果の出てきている炭化水素中の電子移動を中心的に進めるべきか、苦戦中の薄膜のパルスラジオリシスシステム開発に注力するか悩むところでは有るが、薄膜のパルスラジオリシスは成功すれば、今後の展開が期待できるので、このまま続ける。薄膜のパルスラジオリシスシステム開発を継続しつつ、炭化水素中の電子移動の研究も行う。ダメージしたカソードの交換、電子発生用レーザーのメンテナンスを行い、シグナルを増強する。一方、吸光度のノイズレベルが約0.001とまだ大きいので、1桁の向上を目指す。主な原因は、分析光のポインティング、強度の変動なので、その改善を行う。次年度に持ち越した試料照射位置可変機構は、必要なので、試料形態と保持方法を確定し導入する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料照射位置可変機構の導入を29年度としたので、繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品として、試薬、高分子材料、ガラス器具、パルスラジオリシス測定系のための光学部品、光学部品マウントを購入する。試料照射位置可変機構を導入する。
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