炭化水素の一種である直鎖ドデカンについて、これまで放射線化学初期過程をフェムト秒パルスラジオリシスにより測定し、ジェミネートイオン再結合、放射線分解初期過程の研究を行ってきた。 本課題では、これを他の飽和炭化水素や高分子へ拡張すること、高分子材料の薄膜でパルスラジオリシス測定を可能とし、そこでの放射線化学初期過程を解明することが目標であった。 飽和炭化水素中の電子輸送について、ビフェニルをプローブ分子として用いたフェムト秒パルスラジオリシス実験を行い、直鎖ドデカン以外の直鎖オクタン、直鎖ヘキサンにおいても、拡散律速反応速度で表されるビフェニルラジカルアニオンの生成と、現状の時間分解能以内の高速な生成挙動を観測することができた。さらに時間分解能を向上するために試料を薄くして測定した場合に、吸光度測定の精度が上げられず、ジッターも大きく、速い成分の測定はできなかった。 薄膜のパルスラジオリシス開発については、フェムト秒パルスラジオリシスで、水和電子を極大波長の720 nmで測定した場合に71μm厚、ナノ秒パルスラジオリシスでは7μm厚の試料まで測定できることを示した。さらに電子ビームを極限まで絞り込み電荷密度の向上を試みたが、現状ではスポットサイズは変わらず、電荷量は低下し、従来より悪化傾向にあり、改善できなかった。
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