研究課題/領域番号 |
15K06669
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
谷池 晃 神戸大学, 海事科学研究科, 准教授 (50283916)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオンビーム / 放射線グラフト重合 / 高分子材料 / 導電性 / 加速器分析 |
研究実績の概要 |
イオンビームを用いて厚さが数十から数百マイクロメーターのポリマーシート中にポリマー電解質等を閉じ込め,機能性ポリマー材料を作成するための基盤研究を行うことを目的としている.平成28年度は主にその場グラフト重合の多様な材質・モノマーへの適用と,前年度よりも細い重イオンビーム照射によるポリマーへの導電性領域導入に関する研究を行った. モノマー分子を真空中に導入すると同時に,ポリエチレンシートを陽子ビームで照射した.アクリル酸モノマーを用いた場合にはグラフト鎖導入が確認できた.また,導電性ポリマーの構成要素であるEDOTモノマーを導入しながらポリエチレンシートを陽子ビームで照射した結果,試料の重量増加と変色からグラフト鎖の導入が確認された.この,EDOTモノマーについては,これまでの前照射グラフト重合法ではほとんどできなかったので,その場グラフト重合法を行う優位性が示された. ポリカーボネート板を直径2 mm程度の銅イオンで照射を行い,微小領域への導電性導入実験を行った.微小領域の表面抵抗値を測定するために用いるプローブは,既製のプローブは大きすぎて使用することができない.そこで,昨年度に引き続き,手製のプローブを作製・改良し,微小領域の表面抵抗値を測定した.また,微小領域中の原子の組成を測定するために,加速器分析を行った.分析ビームは直径0.5 mm以下に絞り,照射部分に対して数点の測定を行った.照射後のポリカーボネート試料内部を加速器分析し,表面付近の元素分析を行った.入射した重イオンは飛程付近に存在し,入射フルエンスと一致していた.その密度はポリマー構成要素の分子密度の十分の一程度であった.表面近傍の酸素原子密度が,照射前のポリカーボネートの密度と比べて減少していることがわかった.これらのことから,ポリカーボネート内部の分子構造が変化し,導電性が生じることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
導電性導入実験において,十分なフルエンスで照射するには1パラメーターにつき数十時間必要であった.また,これに至るまでのイオンビーム調整にもかなりの時間が必要であった.そのため,限られた加速器マシンタイム時間において,照射試料の変更およびその場グラフト重合実験に費やす時間が短くなってしまった.したがって,導電性領域のポリカーボネートへの導入は行えたが,その他の材料に対する施行が行えていない.また,ポリマー電解質部の導入試験に関しては未実行である.また,モノマーの真空への導入量が不十分なためか,グラフト率が大きくないので対策が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
本学タンデム加速器を使用することができる時間に制限があるため,低エネルギーではあるが,イオンビームグラフト重合を行うテストスタンドの整備を進めている.現状では真空中に導入するモノマー導入量が少ないので,真空ポンプの状態を見ながら導入装置を設置する予定である.タンデム加速器を用いた実験については,イオンのエネルギー,フルエンス等の入射パラメーターを変化させて導電率を測定するといった実験は必要最小限にとどめ,電気が流れる線路の作成,静電容量の作成等の実際のアプリケーション寄りの実験を行いたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
真空中にモノマー(液体)導入しながら行うイオンビーム照射実験を行う際,真空容器内の真空度はかなり低くなる.そして,真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)にその液体分子が飛び込むことになるので,真空ポンプへの負荷は通常の真空度での照射実験より大きくなる.そのため,平成28年度末にポンプのメンテナンスを行う予定をしていたが,3月末に行われた春の学会に向けた実験を行ったために,年度内の実施が困難となり,平成29年度に実施することにした.また,イオンビーム生成に用いている負イオン源の電源が3月に故障した.修理には3週間程度必要だったので,年度内の実施が不可能となり,平成29年度に実施することになった.さらに,新しいモノマー導入装置の設置に関しても遅れているので,平成29年度に設計・購入する予定である.
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次年度使用額の使用計画 |
真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)のメンテナンス,負イオン源の電源の修理を実施する予定である.また,新しいモノマー導入装置を早急に設計し,購入する予定である.
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