前年度まで,真空チェンバー内に設置したポリエチレン試料をイオンビームで照射後,真空中にアクリル酸モノマーを導入してグラフト重合を試みてきた.親水基を持つポリアクリル酸がポリエチレン試料に十分導入された場合,その部分に水を導入することができるため,電解質とすることができる.本年度はそれに加えて,真空中にモノマーを導入しながらポリエチレン試料をイオンビームで照射し,グラフト重合を試みた. その結果,真空中でのグラフト重合反応では,グラフト率(基板ポリエチレン重量とグラフト鎖重量との比)が大きくても数%であった.これを改良するためにモノマー分子の電離に着目した.真空中に導入されたモノマー分子はイオンと衝突し,一部は正イオンになる.このモノマー分子イオンはターゲットバイアスによる斥力を超えるエネルギーは持っていないので,ターゲットには接近しない.そこで,ターゲットを負にバイアスすることにより,モノマー正イオンを引き寄せられる体系とした.さらに,ポリエチレン試料は絶縁体であるので,試料表面に負の電圧を確実に印可するために銅メッシュを取り付けた.この時,金属メッシュで発生した二次電子がモノマー分子をイオン化することで,グラフト重合に対して有利に働くと考えた.さらに,より多くのモノマーを真空中に導入する方法についても検討した. 以上の改良により,グラフト率が数%であったのもが数十%になり,ターゲット電圧,メッシュ粗さ,ビームパラメータのグラフト率依存性に関する実験を行うことができた.さらに,入射イオンを銅イオンとした照射実験も同様に行った.その結果,その場同時重合では,試料の表面のみにしかグラフト鎖が生成していないことがわかった.液相反応では試料の内側にもグラフト差の存在を観測することができる.その場同時グラフト重合においては,試料内側までモノマーが侵入していないことがわかった.
|