研究実績の概要 |
本研究では、低酸化数ウラン化合物の発光を制御する、新たな方法を開拓することを目指す。4価ウランの光物性に注目し、錯体構造と電子スペクトルの相関を明らかにするために、分子対称性を考慮する。ウラン-有機配位子錯体の電子スペクトルを計測する。 2年目においては、合成・昇華精製方法の再現性を検討した。合成・昇華精製は、昨年度同様に代表者らが報告している、酸化ウランとCCl4の高温下での接触反応(J. Radioanal. Nucl. Chem., 2015, 303, 1095-1098)によって行った。この方法は、アンプル管内の圧力や温度勾配をバッチごとに一定に保つのが難しく、昇華精製条件は必ずしも一定にならないことがわかった。すなわち、昇華後に石英管の壁面上に発色の異なる固体が析出し、それらが塩化物イオンの配位数の異なるUCln(n = 5, 6)に対応すると見られるが、それぞれの収量は均一ではない。したがって、光学純度の高い出発物質を十分な量製造するのは、限られた酸化ウランの量では容易ではない。少量得られたUCl4を有機溶媒に溶解して、時間分解型レーザー誘起蛍光分光法によって、蛍光スペクトルおよび蛍光寿命を取得した。蛍光スペクトルは、77 Kにおいて、438 nm, 473 nm, 528 nmにピークがあり、発光寿命は2 ns未満であった。これは昇華精製を行わない試料に対して、1桁弱短い値であり、4価ウランは有機溶媒中でns程度の非常に短い蛍光寿命を持つことを示している。これに対し、既往の報告では、水溶液中では室温で2.69 ns、77 K で149 nsとなっており、低温においては2桁以上長い蛍光寿命を有する。このことから、水分子よりも強いクエンチャーの配位によって有機溶媒中でウランの蛍光寿命が短くなったと考えられる。
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