本研究では、表面励起起因の「新しい腐食促進モデル」を展開し、「水の放射線分解のイオン種の増加量」から、放射線照射場の腐食促進機構の解明を行うことを目的とする。放射線照射は、量子機構の高崎研のCo60照射施設を利用した。水の放射線分解によるイオン種量は、pH法と電気伝導率法を採用し、測定を実施した。Co60照射中は、pHが酸性側に傾き、電気伝導率は、増加傾向を示した。pHと電気伝導率との間に相関関係が明瞭に見られた。この結果は、水の放射線分解により、H+とOH-が増加したことを意味している。この相関挙動を詳細に解析するため、年度途中から、溶存ガスの影響を酸化還元電位の観点から、調べた。水素、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素を水に溶解させた。水素による還元雰囲気と酸素による酸化雰囲気では、酸化還元電位に逆相関関係が見られた。また、表面励起効果の増大を期待して、ガラスビーズを分散させたが、明瞭な表面励起効果は見られなかった。さらに、照射後の水では、過酸化水素とオゾンの発生が確認できた。 本研究により、H+とOH-のイオン種量が、推定評価値として10倍程度増加することが分かった。本件で提案する「新しい腐食促進モデル」では、放射線環境下に置かれた湿式型の材料腐食は、水の放射線分解で生じるイオン種量の増加が、一つのキー因子に挙げている。本研究によって「新しい腐食促進モデル」の有効性が確認できた。 今後は、それら測定の再現性と高精度化を試み、測定データの信頼性向上を確立する。
|