研究課題/領域番号 |
15K06677
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
八巻 徹也 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (10354937)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオンビーム / 潜在飛跡 / 電子励起効果 / ナノドットアレイ / 電極触媒 / 固体高分子形燃料電池 |
研究実績の概要 |
本研究では、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの電気絶縁性炭素材料において、イオン飛跡に沿って形成される電気伝導性の円柱状領域をごく微小な電極として利用し、電解析出法により金属ナノドットアレイを創製する。このうち今年度は、電気伝導性の基板に堆積したDLC薄膜に核種、エネルギーを変化させMeV-GeV重イオンを照射することによって、ナノドットアレイの形成条件を検討した。具体的には、以下のとおりである。 まず、炭素材料として、高い電気絶縁性、成膜の容易さなどの特徴を有するDLCに着目し、そのイオン飛跡における構造変化が水素の含有量に影響されることから、プラズマCVD法を利用してできる限り含有水素の少ない薄膜試料を得た。ここで、電気化学プロセスを利用するため、高ドープSi基板、金属Ni基板、グラッシーカーボン基板によってDLC薄膜と電気的導通をとった。堆積厚さは、予めTRIMコードによる理論計算に基づき、100~150 nmの範囲とした。 次に、作製したDLC薄膜に対して、MeV-GeV重イオンを核種、エネルギーやフルエンスを変化させて照射した。百MeV級の重イオンとクラスターイオンは日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所の保有するイオン照射施設TIARA、GeV級はドイツ重イオン研究所(GSI)の線形加速器UNILACにて照射を行った。特に、クラスターイオンの照射では、DLC薄膜の膜厚に対して飛程が十分に長い6 MeV C60+ビーム(100 keV 12C+で350 nmと計算)を選択し、照射フルエンスを5×E9から2×E10 ions/cm2の範囲で変化させた。保有している顕微ラマン分光装置を用いて、以上のDLC薄膜とその飛跡内における微細構造を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属等からなる電気伝導性の基板に堆積したDLC薄膜に核種、エネルギーを変化させMeV-GeV重イオンを照射することによって、ナノドットアレイ形成条件の検討に着手することができた。本研究の特色でもあるクラスターイオンの照射についても、イオン照射施設TIARAにて6 MeV C60+ビームをフルエンス5×E9から2×E10 ions/cm2の範囲で照射、その後の構造解析までおおむね順調に進展している。 また、現有装置の仕様、及びその適合性を考慮した結果、照射中の試料を500℃までの範囲で加熱できる見通しを得た。
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今後の研究の推進方策 |
イオン飛跡が有する微小電極としての特性を評価した後、イオン照射DLC薄膜による電解析出の条件と得られた金属微粒子の形態、結晶性との関連性を調べることでナノドットアレイの形成条件を確立する。 また、試料の触媒性能を示唆する電気化学特性(特に酸化還元の開始電位、反応過電圧や有効活性面積、電荷移動速度)を評価し、上で調べた特性との関係を明らかにする。実験条件との関連性において着目すべき電気化学特性は、サイクリックボルタモグラムにおける反応の開始電位と電流、過電圧、さらには水素の吸脱着による電気量から計算できる有効活性面積である。また、回転電極法で得られる電荷移動速度も、電極表面の拡散層の影響を排除した真の反応活性を表すので重要である。その後、作製条件へのフィードバックをかけることで、イオン飛跡の構造変化による制御可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
照射中の試料を加熱するため、真空チェンバー内に設置するヒーター搭載の小型照射セルを設計、製作する予定だったが、現有装置の仕様、及びその適合性を考慮した結果、若干の部品だけで準備できる見通しを得た。
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次年度使用額の使用計画 |
主に、金属ナノドットアレイの作製と構造・触媒活性評価のための試薬、導電性AFMチップ、ガラス器具などの消耗品費である。特に、Ptの化合物は高価であるため、見積書をもとに最安品を選択するよう心がけるとともに、比較的安価なCuなどの模擬金属の使用も検討する。また、研究成果の外部への発信や研究遂行上必要な情報収集に掛る費用として、国内旅費、外国旅費及び学会登録料を計上する予定である。
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