本研究はリチウムイオン二次電池(LiSB)の劣化・安全性評価に関して、定電流充放電中に電流遮断を10分ほどかけた際の電池電圧の緩和過程を解析し、電池の内部状態を検出する原理を明らかにし、その解析技術としての実用化を目標としている。 解析原理については、単純な1段の分布定数回路をモデルとしたものでは電池応答のモデルとしては不十分であり、活物質側の分布定数系と電解液側の分布定数系が格子状に2段に積層された2段分布定数回路が必要であることが分かった。この2段分布定数回路の基礎式をキルヒホッフの法則、オームの法則、電荷バランスを考慮して連立変微分方程式として求めた。活物質側の容量が電解液側の容量よりもはるかに大きいことを利用してこの基礎式をさらに単純化し、解析解を求めることが可能な基礎式を得た。これをラプラス変換を利用して解析解を求めた。これにより、電子伝導性に乏しい酸化物活物質が合材電極体積の8割程度を占める正極側は集電体からの電子抵抗が大きいため、低性能型電極の挙動を示し、電子伝導性に優れた黒鉛が合材電極体積の多くを占める負極側は集電体からの電子抵抗が小さい高性能型電極の挙動となり、この二つ電極の直列接続で電池応答を1mV以内の残差で表現できることを明らかにした。 LiSBのBMSではインピーダンス測定により本提案と同容易なことを実現しようというのが一般的なので、2段分布定数回路のインピーダンス特性を表現する解析解を求めたところ、特徴的な円弧成分が観測されるのは低性能電極の場合であり、高性能電極は電気二重層キャパシタ類似の挙動にしかならないこと、1mHz~0.01mHz領域でインピーダンスの実部が大きくなる挙動は本質的なものであることを明らかにした。有効な情報を得るためにはmHzオーダーの周波数スペクトルの測定が必須であり、長時間が必要なため、BMSには適さない。
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