研究課題
これまでの疫学研究より、父親の高齢化は、様々な精神疾患や発達障害の発症リスクを増大させることが知られている。申請者らはこれまでに、若齢あるいは高齢の父親マウス由来の仔マウスにおいて、母子間の言語コミュニケーション障害を示すことを見出しており、本研究では、その病態基盤の解明を目的とする。これまでに、母子間の言語コミュニケーションにおける不安の関与が指摘されていることから、若齢および高齢の父親マウス由来の仔マウス脳を用いて、不安に関係する脳領域における神経活動を免疫組織学的に評価した。その結果、高齢の父親マウス由来の仔マウス脳において、不安に関わる脳領域における神経活動の低下を見出した。このことより、高齢の父親マウス由来の仔マウスにおける言語コミュニケーション障害は不安に対する応答性の低下に起因する可能性が示唆された。また、若齢および高齢の父親マウス由来の精子における包括的メチローム解析を実施し、16個の高メチル化領域と96個の低メチル化領域を同定した。こられのうち5つの低メチル化領域が、既報の自閉症関連遺伝子座の近傍に存在することを確認した。さらに、これらの遺伝子の中から、高齢の父親マウス由来の仔マウスにおいて有意に発現低下する遺伝子を同定した。しかしながら今回解析した遺伝子の中には、不安関連脳領域において発現変化するものは含まれていなかった。また、メチル化領域のモチーフ解析を実施し、メチル化領域の約20%においてREST/NRSF結合サイトが共通して存在することを見出した。REST/NRSFは神経分化を抑制する分子であることから、高齢の父親マウス由来の仔マウスは、神経発生の過程における神経分化が遅延することによる不安の形成異常が言語コミュニケーション異常の病態基盤である可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究計画では、父親マウスの高齢化による言語コミュニケーション障害に関わる神経基盤と父親マウスの精子を用いた網羅的メチローム解析から言語コミュニケーション障害に関わる候補遺伝子をリストアップすることを目指しており、いずれの研究計画とも当初の予定通り実施されている。加えて、後者の網羅的メチローム解析から、父親の高齢化による精子のDNAメチル化領域に共通したREST/NRSF結合サイトを同定した。このことは、加齢という現象がただ単なるエラーの蓄積ではなく、生物学的意義のある現象であることを示唆するものであり、また、この共通した分子基盤を利用することにより、父親の高齢化による次世代における表現系獲得のメカニズム解明の研究に大きな発展性をもたらすことが期待できる。
これまでの研究成果をもとに、当初の計画に加えて、新たな研究計画を立て直す必要がある。前述したように、若齢あるいは高齢の父親マウスの精子を用いた網羅的メチローム解析の結果より、父親の高齢化に共通した分子基盤としてREST/NRSFの関与が示唆された。REST/NRSFは神経分化を抑制する分子であることから、高齢の父親マウス由来の仔マウスでは神経発生が遅れている可能性が示唆される。このことを明らかにするために、若齢あるいは高齢の父親マウス由来の仔マウス脳の神経発生におけるREST/NRSF標的遺伝子の発現解析や免疫組織学的手法を用いて神経発生の影響について検討する。さらに、高齢の父親マウス由来の仔マウス脳においてREST/NRSF経路の異常が観察された場合には、言語コミュニケーション異常への関与について検討する為に、REST/NRSF阻害剤等を用いた阻害実験を検討する予定である。
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