研究課題
これまでの疫学研究より、父親の高齢化は、様々な精神疾患や発達障害の発症リスクを増大させることが知られている。申請者らはこれまでに、若齢あるいは高齢の父親マウス由来の仔マウスにおいて、母子間の言語コミュニケーション障害を示すことを見出しており、本研究では、その病態基盤の解明を目的とする。昨年度は、高齢の父親マウス由来精子のDNA低メチル化領域のモチーフ解析を実施し、REST/NRSF結合モチーフが濃縮されることを明らかにしたが、今年度はさらに、ChIP-Atlasを用いたin silico解析において、高齢の父親マウス由来精子のDNA低メチル化領域の多くにREST/NRSFが実際に結合することを確認した(37/96 DNA低メチル化領域)。REST/NRSFは神経分化を抑制する分子であることから、高齢の父親マウス由来の仔マウスにおいて、REST/NRSFの機能異常による神経発生あるいは発達への影響が想定されたため、若齢あるいは高齢の父親マウス由来の仔マウス脳における大脳皮質形成について免疫染色法を用いて検討した。興味深いことに、高齢の父親マウス由来の仔マウス脳では、大脳皮質の厚みが減少しており、特に、第VI層ニューロンの神経細胞数、細胞密度の低下が認められた。一方で、第II-IV層および第V層のニューロンについては有意な変化は認められなかった。現在、その分子基盤について検討するために、現在、第VI層ニューロンが誕生する胎生期11.5日齢の終脳における網羅的遺伝子発現解析を実施している。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、高齢の父親由来の精子の高・低メチル化領域の近傍の遺伝子発現について検討する予定であったが、精子のメチル化情報のモチーフ解析およびChIP-Atlasによるin silico解析の結果より、神経分化抑制に関わるREST/NRSFが濃縮されていることが分かったため、父親の高齢化はランダムに影響するのではなく、何らかの生物学的意義により影響する可能性が想定された。そのため、仔マウス脳の組織学的解析を実施し、父親の高齢化の影響が比較的神経発生の初期に限定的であることを明らかにした。現在、その分子基盤について解明を進めている。このような研究の発展性については当初の想定以上のものであったため、これらの解析に多くの時間を要した。一方で、今年度よりエピゲノム操作に関わる発現ベクターの構築を進める予定であったが、現在までにコンストラクションは進められていない。また、申請書ではTALENを用いたシステム構築を計画したが、Crispr-dCas9システムによる構築を進める予定である。
最近、若齢あるいは高齢の父親由来の胎生期11.5日齢の終脳における網羅的遺伝子発現解析の結果が届いた。今後、このデータを用いてどのような遺伝子の発現が変化しているのかについて検討するとともに、REST/NRSFを中心として発現変化の分子基盤の解明を実施する予定である。さらに、同定された遺伝子群に関して、定量PCR、in situ hybridization等を用いて、その再現性について確認する予定である。また、エピゲノム操作のための発現ベクターの作成を進め、次世代エピゲノム継承を実験的に証明するための評価系の確立を進めたいと考えている。同時に、代謝異常の次世代エピゲノム継承の研究分野ではnon-coding RNAに着目して実験的に証明する方法が確立されており、この実験系の確立のためにも生殖工学技術等の習得を進めたいと考えている。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
PLoS One
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